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□じゃあ俺が攫ってやるよ
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「愛の逃避行っていいよね」

突然ごんべがそう言いだすもんだから、思わず俺はもらったばかりのドリンクを吹き出す羽目になった。
周りから白い目で見られたが、断じて俺のせいではない。
その元凶は俺に見向きもせずに自分用のドリンクを飲んでいた。

「いきなり何を言い出すんだ、お前は!」
「皆の練習風景見てて思ったの」
「マネージャーとして働け!」

ごんべは万能坂中サッカー部のマネージャーだ。
本人はあまりその気はないらしいが。

「でもね、逃避行は愛し合う二人じゃないとできないんだ」
「そうかよ」

飲み干したボトルを横に置いて、ごんべは髪をいじりながらつぶやいた。
それにいちいち返答をする俺も、昔からとはいえ、よくもってると思う。
気が長い訳ではない俺でもごんべだけはうぜぇと感じることもない。
そのくらい前から俺はこいつと一緒にいた。

「私と逃避行してくれる人はいつ来るんだろう」
「そんなに逃避行とやらがしてえのかよ」
「逃避行は私の憧れっていうか、一回してみたい」

「じゃあ俺が攫ってやるよ」

それでいいだろ、と吐き捨てて、周りの冷やかしを蹴散らしながらフィールドに戻った。

「光良、研磨にやっとプロポーズされた!」
「よかったねごんべ」

「磯崎、顔赤いぞ」
「うるせえ!」




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