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□何でも信じる君が
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帰りのHRが終わるといつも私はすぐに帰る。
クラスメートたちはわいわいと話しながら部活へ行ったり下校したり。
私は一人だ。
正確には、一人だった。
空野葵ちゃんという友達ができたから。

「ごんべちゃん!」

私を呼びとめた声の主は葵ちゃん。
葵ちゃんと知り合ってからはずっとサッカー部のマネージャーに誘われている。

「今日も帰っちゃうの?」
「今日は習い事があるんだ」
「昨日もそうやって断ってたよ」
「ごめんね」

眉根を上げて謝ればいとも簡単に許してくれる。
普通ならそろそろ気付いてもいいのに。
私が習い事なんてしていないこと。

「いつなら空いてるの?」
「うーん、習い事も急に入るから前日に分かるんだ。だから、いつ、とは言えないかな」
「忙しいんだね…。お母さんのお見舞いもあるんでしょ?」
「見舞いに来いって頻度もう少し減らしてくれればいいのに」

実の母親なんていない。入院しているのは義理の母親。
本人は可愛がっているつもりなんだろうけど、こっちは全然嬉しくない。
しきりに時計を見る。急いでいる、ということをアピールするためだ。
葵ちゃんもさすがに気付いて、ばいばい、と手を振った。
こちらも少し急ぎ足をしながら手を振りかえす。

「猫被り、か」

昔言われて傷ついたその言葉は今では私の褒め言葉だ。



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