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□気に入られようとする君が
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昨日は、葵ちゃんがマネージャー業で忙しそうになったのを見て、サッカー棟を抜け出した。
そのせいで今日葵ちゃんに会った後に何で帰ったのかしつこく迫られたけど、夕飯の準備とかで色々忙しかったと伝えて説教を免れた。
そんなことが午前中にあって、今はお昼休み。
狩屋を狙う女子たちが私の退散を願っている。
こっちから願い下げだから、平気だけどね。
どうせだから逃げるだけじゃなくてちょっと狩屋に嫌がらせでもしようか。

「サッカー部に入部したんでしょ。しかも一軍だし、すごいね!
あ、これからしばらくの間用事あるから狩屋くん一人でお昼だけど、大丈夫?」

後半の声色を少し心配そうにして、狩屋の方を向いた。
にこにこ、と効果音がつきそうなくらい微笑むと、狩屋の顔は引き攣った。
この前の昼のお返しだ。

「俺なら大丈夫だよななしのさん」
「狩屋君、一緒にご飯食べない?」

私たちの会話を聞いていた女子の内の一人がぶりっ子をしながらやってきた。
そんなことしてもかわいくないと思うのは私も狩屋も同意見のようだ。
女子の隣を通り過ぎようとした時、葵ちゃんが教室の入り口付近で私を呼んだ。
お弁当を持って近づくと廊下にはピンク色の髪が見えた。

「どうしたんですか、霧野先輩」
「これ、ななしののじゃないか?」

先輩の手の中にあったのは私がポケットに入れていたお守り。
お守りと言っても私が作ったキーホルダーだ。
自分のスカートのポケットを探ると、やはり無かった。

「あ、はい、私のです」
「よかった。サッカー棟のベンチの近くに落ちてたからななしののじゃないかって思ったんだ」
「ご迷惑をおかけして、すみません」
「いいって。もう落とすなよ」
「はい。ありがとうございます、霧野先輩」

先輩に一礼すると、手を振りながら帰っていった。
側にいた葵ちゃんは私と霧野先輩の関係を知りたがっていたけど、ただ委員会が同じなだけで特別な接点がある訳ではない。
つまらなさそうな葵ちゃんに苦笑いをして、屋上へ向かった。
一人で行く屋上は清々しかった、気がした。



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