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□吐き捨てる君が
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手には握らされたホーリーロードのチケット。
目の前にはきらきらと瞳を輝かせている葵ちゃん。
どうやら私に逃げ場はないようだ。
「気持ちは嬉しいんだけど、この日はちょっと、「この日開けといてねって言ったらうんって言ってくれたでしょ?」
三日程前に葵ちゃんが日程を聞いてきたのはそのためか。
私は未定とだけ答えたはずだ。
無理にでも予定を入れておけばよかった。
「ごんべちゃん来てくれるよね!」
一応友達のお願い(という名の強制)を無視するわけにはいかず、私はスタジアムに来てみたのだが、
「君、これから試合見んの?」
「まぁ」
「じゃあさ、俺と一緒に見ない?」
「いや、」
「その後お茶でもしようよ」
ナンパというやつに引っかかった。
試合開始直前だから周りに人はほとんどいない。
そんな中ナンパ相手を待っていたこの人にはある意味感心する。
寂しく誰か来るのを待っていたのに、なかなかかわいい独り身の子が来なくて待っていたらこんな時間、そこに私が来たから譲歩したんだろう。
「残念だけど、俺の彼女だから」
「……何で此処にいるの」
「ケータイに電話かけたのに全く出ないから、心配したんだよ」
「え、狩屋「ナンパなら他を当たれよブサイク」
後ろで叫んでいる負け惜しみみたいな声を聴きながら、手を引かれてスタジアムに入った。
前で歩いていた狩屋は関係者立ち入り禁止の看板の前まで来て、立ち止まった。
「試合、もうすぐ始まるよ」
「今から戻れば別に平気だし」
「他の部員が心配してるんじゃない?」
「……どうだか」
そう吐き捨てて狩屋は戻って行った。
ここまで連れてきておいて私は置いてけぼりか。
席は入り口の目の前だから入り口付近で手を離してくれればよかったのに。