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□視覚がまずやられたみたい
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幸い私は骨折などの重傷はなく、普通に学校に通っていた。
そして、彼女は親の都合により転校。
そういう事に名義上はなった。
怪しむだろうと思ったクラスメイト達は予想に反して受け入れていた。
裏の事情を知っている拓人君だけはとても悲しそうだった。
一方私は悲しいどころか嬉しくて仕方が無かった。
拓人君は彼女が転校しただけでなく、私を階段から突き落としたという“事実”を受けて、私に負い目を感じているはずだ。
ここを叩かない訳がない。
そういう事で、私は放課後に拓人君と共に教室に居た。
他には誰もいない。
周りの教室から音すら聞こえない。

「拓人君、ごめん」
「何故謝るんだ」
「本当は私と居たくないでしょう?」

しおらしく演じてみれば純粋な拓人君は困ったような顔をした。
彼は優しいから、そんなことはないと言ってくれる。

「いや、そんなことはない。謝らなければならないのはこっちの方だ」
「ううん、拓人君は何もしてないよ」
「一度謝らせてくれ。…本当にすまなかった」

深く頭を下げる拓人君に私は気付かれないようにくすりと笑う。
罪滅ぼしという名のお付き合い、してくれるよね。

「あの、きっと今言うことじゃないんだけど、」
「なんだ?」
「私、拓人君のことが好き、なんだ」

優しい所だけじゃない。
神童拓人、そのすべてが好き。

「でも、たぶん拓人君は心の整理がつかないだろうし、前の彼女さんの事忘れられないと思う。だから、ゆっくりでいいから、私を見てほしい」

彼にはどう聞こえるのだろうか。
自分の彼女が怪我をさせた女の子に告白される。
彼は言い表すことができないほどの表情をしていた。
同情と悲しみと混乱。
そんな拓人君が今回の物語の主役。
そして私は悲劇のヒロイン役だ。

「ななしのさん、俺も…ななしのさんの事が好きだ」

これが彼の答え。



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