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□端の方をちょっとでいいから
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私と拓人が付き合っているという噂は驚きの速さで駆け巡った。
翌々日には全生徒に知れ渡っていたのだから、噂とは本当に恐るべきものだ。
普通、元彼女が突然いなくなってその後すぐに他の女の子と付き合うなんてまるで二股をかけているようだけれど、その人が“神童拓人”なら通ってしまう。
私が聞いただけでは、元彼女が私の事を脅しただとか、元彼女が拓人に飽きただとか、彼女が悪く言われているのが多い。
私と隣に居る拓人に害が無ければそれでいい。

「拓人、」

私が名前を呼べば、拓人は何も言わずにキスをしてくれる。
愛されていると実感できる数少ない瞬間だ。
けれど、一週間経って今更少しだけ後悔している。
拓人は私を少しずつでも愛してくれているのか。

だから、

「拓人、貴方の何かが欲しい。何でもいいよ。たとえば、爪、とか」
「…わかった。何か考えてくる」
「ありがとう。拓人大好きだよ」
「俺も、ごんべが一番好きだ」

そうしてもう一度キスをして。
やっぱり愛されていると思ってしまう。



次の日、拓人は約束通り私にプレゼントをくれた。
彼の左手の小指は包帯でぐるぐると巻かれていたから、きっと本当に爪をくれたのだと思う。
もちろん痛かっただろうし、心配したけど、彼はすべての人に対して大丈夫だの一点張りだった。
拓人の物。私は大切に机の上に置いて、眺めた。



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