novel
□あなたの存在
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武器を持った戦士と武器を失った戦士、どちらが死ぬかなんてわかってる。
よほどな事じゃないとそれは変わらない。例えば、相手がその武器の使い方が分からないとか。銃だったら弾が入ってないとか。それか、武器を失ってる方がよほど強いか。
でも、そんな事がある確率なんて無いに等しくて、それが強い戦士ならなおさらだと思う。
大抵武器を失った奴が死ぬ。
俺は武器を失った。
大切な大切な武器を。
武器無しで戦うのが怖かった。死ぬことが分かっててそれでも奇跡を祈って戦う勇気なんて持ち合わせてない俺は戦場から姿を消した。
気丈な奴と言う仮面を取り繕って。
試合中頭痛に襲われた。
でも、どってことないだろって思って試合に出続けてた。
そっからあんまり記憶がない。
でも、試合中に段々頭痛がひどくなっていって、死ぬんじゃないかって思うくらい痛かったのは覚えてる。
次の記憶はなんとも殺風景な真っ白い壁と天井。
状況が理解出来なくて、頑張って考えようとするけど、頭痛はまだ続いてるようで、痛みがガンガンと響いてくる。
痛過ぎて息が吸えない。吸おうとする度に頭が割れそうで、此処がどこで自分は今何をしてるかなんて考えれない。段々
段々過呼吸みたいに小さな息を繰り返して。助けを呼ぶ声も出ない。状況は分からないけど俺はこのまま一人で死ぬんじゃないかっていう冗談みたいな本当のような事を思う。
呼吸はどんどん苦しくなっていって、頭はガンガン響いて今にも割れてしまいそう。
何が原因なのかもその解決策も分からず状態は悪化してパニックになっていく。
「高尾。目を閉じて深呼吸しろ。楽になるから。」
意識も飛んでしまいそうな痛みの間から聞こえたのは低くくて、でも落ち着いててどこか優しい声。そして、テーピングをしてある冷たい手が俺の目に降りてくる。
さっきまでの痛さと不安がその手の冷たさに吸い取られていくように消えていく。息もしやすくなる。
少し落ち着けて今までの状況を理解する。
さっき見た雰囲気からして多分此処は病院。けど肝心の原因が分からない。
まず、病院に運ばれるほどの頭痛になった訳が分からない。試合前の日もそんなに遅くまで起きてないし、朝ご飯だってちゃんと食べた。
俺の目の上に置いてある手の上に自分の手を重ねた。
「なぁ、真ちゃん」
さっきまでとは違い、落ち着いた体からは何時もよりは弱々しいけど、ちゃんとした音となって声が響く。
なんなのだよ、少し間を開けて返ってきた彼独特の喋り方。テーピングしてある手も、低い声も、その口調でさえ今の俺を安心させる。
なんというのだろう、俺が勝手にだけど隣に居ることが常になっていたから居ないと例え目を開けていても安心できない気がする。俺も相当中毒だななんて思う。
「なんで俺病院にいるの?」
何時もよりゆっくり言葉を紡いでいく。
「試合中頭痛で倒れたのだよ。お前の能力は少し頭と目を使い過ぎるらしい。」
あー。それで頭痛か。やっと理解できた。まだ治りきってないから頭痛が続いているのだろう。
確かに使いこなせるまでは時間も掛かったし、使いこなすために死ぬほど練習した。
初めの頃は、ただ見る事だけに精一杯だったのにしっかり自分の身に付いて普通に使えるようになっていたから忘れていた。
「でも、今までそんなことなかったのにね。」
「あぁ。そうだな」
「うーん。今回そんな強い相手じゃなかったしねー。」
「…そんなこと言うのはあまり良くないのだよ」
「まぁなー。でもなんで今なんだろ?」
「知らないのだよ」
「ははっ。だよなー。
俺も分かんねーもん」
何時も通りのたわいのないこの会話の雰囲気が俺を凄く落ち着ける。
真ちゃんは普段、他の奴らと話してるとこなんかあんまり見ないから、こうやって会話が出来るだけで自分が真ちゃんにとって特別な存在なんだって思ってしまう。
こうやっている時間も
二人だけの世界に居るっていう錯覚に陥る。
勿論そんな事あるはず無い。
そりゃ、出来るなら真ちゃんの特別な存在になりたい。
けどそう思ってるのは俺だけで、これから先も変わらない。
暫く沈黙が続く。
でも、いつも人を触れさせない手は何時までも俺の目を塞いでて。
こんなちょっとした優しさで俺を期待させ、そしてその無意識な行動で俺を悲しみに陥れる。
「なぁ。真ちゃん」
「理由はわからんぞ。」
珍しくすぐ答えが返ってくる。
「いや、それは分かってるんだけどさ。」
「じゃぁ、なんなのだよ。」
きっと頭にはてなを沢山浮かべているのだろう。
ぜひ、自分の目に納めておきたかった。
「真ちゃんの手冷たいなって」
おれがそれを嫌がったと思ったのか、真ちゃんはその手を退けようとする。
その冷たさが気持ちよくて、安心出来るんだっていう意味だったんだけど。
「なんて言うか安心出来るっていうかさ・・」
離されそうになった手抑え、また俺の元に戻す。
「それに、手が冷たい人って手が温かいっていうじゃん?だから、今真ちゃんがこうやってくれてるのも心の温かさの表れー。みたいな?」
自分でも何を言ってるのかわからなくてなんだか恥ずかしくなる。
「心が温かいなんて言われたのはお前が初めてだ。」
ちょっとした沈黙の後、真ちゃんがつぶやくように言う。
真ちゃんの心は温かい。みんな無愛想とかいろいろ言ってるけど、それは相手を傷つけないように言葉を練って練って。
人より何倍も時間を費やして紡ぎだすからなんだ。
だけどそれに気付かないで大抵の奴は去る。
たわいのない、どうでもいいような会話にもこんなに時間を掛けて考えてくれているのに。
だから、俺も真ちゃんの言葉をちゃんと受け取らなきゃいけない。
ぶっきらぼうな言葉でさえ、俺が受け止めてくれると思い紡いでくれているのだから。
「その・・・嫌な気分ではないのだよ。」
このたった一言だって、俺は真ちゃんの手をしっかり包んで受け止めなければいけない。
「あ、真ちゃんがデレたー。めずらしー。」
そうからかえば煩いのだよ。と言って手を退けられてしまった。少し残念。