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□バレンタインデー
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不覚にも見惚れてしまった。
シッダールタが身に着けているのは、彼の為に私が選んだ服で。
セーターとジーンズという格好では隠れていた、女性特有のなだらかな体のラインや、スカートの裾から伸びる白い脚。
訝しむようにかしげる首の細さ。
サラリと青蓮華の髪が流れ、覗くうなじは吸いつきたくなるほど艶めかしい。
「やっぱり、変ですよね……直ぐ着替えてきますから――」
心もちうつむいたシッダールタが試着室の扉を閉めようと身体を翻す。
「待ちなさい」
そんなシッダールタの腕を掴んで引き止める。
「……?」
振り返り、驚いたような表情で見上げてくるシッダールタ。
「……私とした事が言葉を失ってしまいました」
そんな自分に思わず苦笑が浮かぶ。
「とてもよく似合ってますよ。やはりこのワンピースにして正解でした。清楚でバッチリ私の好みです」
シッダールタは大げさですねと、フイっと顔を背けた。
「……ありがとうございます」
小さな小さなささやくような声だったが、梵天の耳には確かに届いた。
いじっぱりなシッダールタの精いっぱいの素直な言葉が……