番外編

□シッダールタ編-2
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コーサラ国へ来て、初めて城外に外出した日――。



買って貰った品が届き、シッダールタがその整理にひと段落した頃。



帝釈天が部屋に食事を運んでくれ、気づけば夕食の時間になっていた。



「じゃーん。今日はよ〜く味わってくれよ」



ニッと笑いながら帝釈天がテーブルに置いた皿には、湯気を立てるちょっと不恰好なオムライスが乗っていた。



「ありがとうございます。もしかしてこれ……」



ケチャップで『シッダールタ』と名前が書かれていて、なんとハートマークまで……。



「そ。オレ特製♪ 今日は梵天、遅くなるらしいから先に食っててくれってさ」



梵天とは一緒に城に帰ってきたのだが、仕事が残っているという事で別れたきり。



そう言えば食事の時に梵天が居ないのは初めてだった。



「ハハッ! シッダールタは正直だなぁ」



「えっ?」



「梵天が居なくてさみしいって、顔に出てる」



「……っ!?」



シッダールタ自身ですら自覚していなかった感情を、見透かしているような帝釈天の言葉。



驚愕に目を見開いているシッダールタに、帝釈天は優しく笑うと、このオムライスは梵天の好物なんだ――と話し出した。



「あいつが小さい頃に作ってやったら気に入ってくれてな。それ以来、オムライスだけはオレの役目になってる」



「そうなんですか……」



シッダールタはスプーンでオムライスを掬うと、パクリと口に含む。



こうやってオムライスを食べている子供の頃の梵天を思い浮かべようと試みるが、その姿が想像出来ず思わず笑みがこぼれる。



「今日はお前に食わせてやってくれってさ。ひとりで寂しがってるかもしれないからって」



「そ、そんな事……っ!」



耳まで真っ赤に染まるシッダールタ。




「梵天が食事にコレを頼んで来る時って、たいてい寂しいとか悲しいとか。まぁ、そんな時なんだ。あいつ、意地っ張りだからなかなか頼んで来ないけどな」



「……」



「ちなみに梵天の夕食……仕事が終わってからだから夜食になるか? ま、とにかく食事は、シッダールタのと同じオムライスなんだ。あいつも寂しがってるから、一緒にいてやれない事許してやってくれな」



ぽん、とシッダールタの方に手を置くと、梵天の仕事を手伝うべく、帝釈天は部屋を出て行った。



――私は、梵天さんに一緒にいて欲しいって思ってる……?



その自分自身への問いが頭を占める。
考えれば考える程、認めたくない答えに辿りいてしまい頭を抱え込む。



「何で、私はよりによって……」



つぶやいて、ふとオムライスに目を落とすと、梵天のオムライスには彼の名が書かれているのだろうかという素朴な疑問が思い浮かんで笑みが零れた。



梵天が大好きだというオムライスは、初めて食べたはずなのに、なぜか懐かしい味がした――。
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