番外編
□梵仏編-1
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梵天さんはわがままだ。
無茶な事を口にして、私が困るのを見て楽しんでいるフシがある。
惜しげもなく告げられる、歯の浮くような口説き文句のような数々の口上。
そして屁理屈もお手の物ときている。
きっと私の顔は真っ赤になっているのだろう。
返す言葉に詰まったところを、覗き込んでくる彼の嬉しそうな笑顔。
私だって王子として人前で取り繕うのは慣れているはずなのに、どうした訳か彼の前ではぎこちなくなる。
そんな彼に困惑する反面。
一国の王として支配者然とした彼が、自分だけに見せてくれる子供っぽい笑顔や態度。
それを嬉しく思ってしまうのだから、結局は私の負けなのだろう。
そして今夜も。
座っていたソファーに突然押し倒された。
驚いて見上げた彼の瞳は、その強引な行動とは裏腹に不安げに揺れていて。
「シッダールタ。一晩だけ……身も心も、貴方の全てを私に下さい」
いつだって余裕のある態度の彼が、切羽詰まった様子で切なげに自分を見下ろしていた。
「そうしたら貴方を故郷に帰して差し上げます。そしてもう二度と……貴方の前に姿を見せませんから」
感情を抑えたような声音で告げられる言葉。
だが何処までも真剣な彼の本心が伝わってくる。
とたんに私の目の奥が熱くなった。
涙が零れ落ちないよう必死に抑え込みながら、彼の首元に腕を回してきつく抱きしめていた。