拍手お礼SS
□アルバイト作戦
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【拍手お礼SS】
***バレンタイン記念短編小説より***
●アルバイト作戦●
年末年始と財布の紐が緩くなり、それからダラダラと出費が重なって、今月末も苦しくなりそうな予感のするブッダ。
節約するぞと意気込み、夕食の買い物に一人訪れたスーパーで、偶然前を歩いていた人が手を伸ばした無料配布の冊子に、ブッダも思わず手に取ってみた。
それは町のマガジンラックでよく見かける求人情報誌で、初心者大歓迎とのキャッチコピーが目立っていた。
立ったままパラパラと中を覗いていると、うしろから突然声を掛けられた。
「何をしているんですか、シッダールタ」
やましい事など何もないのに、突然現れた梵天の声に驚いて冊子を落としてしまう。
「仕事をお探しで?」
ブッダが落とした求人情報誌を拾い上げ、中身に目を通す梵天。
「……その、少しだけ」
「やめておきなさい。貴方には無理です」
「でも、イエスだって出来たし」
「イエス様は貴方とは違います」
それはそうだ。
イエスは救世主として活動するまで大工として働いていたが、自分は出家するまでは王子で何もしていなかった。
「ですがほら、これなんて履歴書不要って書いてある! こんな感じの単発のバイトくらいなら……」
冊子を指さすが、梵天に取り上げられる。
「なぜ急にバイトを?」
勘繰られている。
神妙な面持ちで迫り来る、迫力のある梵天の顔。
すれ違う人たちが変な目で見てくるのでやめてほしい。
残金が厳しい事は事実だし、隠すこともないのでそんな感じの理由を述べれば、梵天は呆れたと言わんばかりにわざとらしく息を吐いた。
「貴方はマンガ描きという素晴らしい仕事があるでしょう。お金は前払いしてあげますから」
「……でも」
「聞き分けのない人ですね」
梵天は冊子をマガジンラックに無造作に戻した。
「世間知らずの貴方が働いたって、皆さんに迷惑をかけるだけです。悪いことは言わないからやめておきなさい。いいですね?」
「………」
「どうしてもというなら、私が貴方を雇ってあげましょう。……ですが雇用主の言いつけは絶対ですよ」
「止めます!」
「よろしい」
ネクタイを正しながら、梵天が口を開く。
「お金なら、私が……と言いたい所ですが、あなたは受け取って下さらないでしょうし。とりあえず、悟アナを1本宜しくお願いします、先生」
といって、封筒を差し出す。
封筒にはシッダールタ先生へ。
原稿料(前払い)となっていた。
用意していてくれたのか。
申し訳なく思いながらも、封筒を受け取ろうと手を伸ばしたブッダの手を梵天がガシっと掴む。
「わざわざ、私へのチョコの為に働かなくてもいいのですよ。貴方の手作りであれば私は何であったとしても嬉しいのですから」
本心を突かれて、ブッダは思わず赤面する。
「っ///! 梵天さんの為じゃありません! イエスにケーキをっ!」
「フフ、そういう事にしておいてあげましょう」
「バレンタイン当日のデート、楽しみにしております」
では失礼!と、ブッダの手の甲にキスをひとつ落とすと、梵天は握っていた手を放してハハハハと笑いながら姿を消した。
「本当に心臓に悪い人ですね……」
ブッダは疲れたように、盛大なため息をついて、力なく買い物を始めるのだった。