拍手お礼SS

□Crazy Rendezvous
1ページ/1ページ




「ねぇ、梵天さん……。あなたって本当に強引ですね。これじゃまるで誘拐じゃないですか」



梵天の運転する車の助手席で、ずっと窓から夜景を眺めていたブッダがあくびを噛み殺しながら呟いた。



ブッダは部屋で寝ていたのを攫われるように、無理やりに外に連れ出されたのだった。



この男の事だ。
夜更かしなイエスが寝静まった頃を見計らっての犯行だろう。



「このまま、貴方を独り占めしてしまいましょうか」



そんなブッダとは対照的に、梵天はいたくご機嫌な様子でハンドルを握っている。



「ほんっと、あなたって人は……」



何を以て神なんだか……、とため息をつくと、前を向いたままの梵天だが、口元に笑みを浮かべてチラリとブッダに視線を流した。



「冗談ですよ。朝には帰しますから安心してください」



「あたりまえです! というかすぐに帰して欲しいんですけどね」



「おや、冷たい」



梵天は含み笑いを漏らした。
それを聞きとがめたブッダは口をとがらせる。



「まったく、バカンスに来てまで貴方のわがままに付き合わされるとは思いもしませんでしたよ」




「フフ、私に会えて嬉しいでしょう? シッダールタ」




「あなたのその異常なほどの前向きさには呆れますよ」



ぷいと横を向いたブッダだったが、ちらりと梵天を盗み見た時、絶妙なタイミングで梵天の視線もこちらに向いた。



「実を言いますと……本当にそんな風に思ってしまったんですよ、その当時」



「梵天さん……」



「誰の目も届かないところに閉じ込めて、私しか見えないようにしてしまおうかと」



梵天はでもね、と続ける。



「そうしなかたった私は、しょせん神という事でしょうか」



梵天が、物思いに笑みを刻んで言葉を続ける。



「今、私たちの在り様を見ると、あの時の選択は間違ってなかったと思っているんですよ、シッダールタ。私の思い通りにはなりませんが、貴方が隣で笑ってくれる。やっぱり惚れた弱味ですかね」



「梵天さん、あなたはイチイチ発想が俗っぽいんですよ」



拗ねてみせるが、その内心を梵天は見抜いているだろうことは、ブッダは長い付き合いの中でわかっていた。



「そんな神としては浅ましい想いを抱える私を、あなたは受け入れてくれる。ありのままの私を……。それだけで救われるんですよ」



耳元で囁かれた声の甘さに、ブッダは声の方に顔を向けた。



とたん車がキュっととまり、梵天の指先が優しくブッダの頬のラインを撫で上げると、ついばむように軽く唇を重ねてきた。



間近でにっこりと笑みを浮かべる梵天に、ブッダはこらえきれずに笑い出した。



「こんな風に仏の私を好き勝手に扱うのはあなたくらいなものですよ」



バチあてますよ!と梵天の唇を押し返すと、
それは怖いですねと肩を竦め、梵天は車を発進させた。



すっかり機嫌の直ったブッダは、ずっと気になっていた事を訊ねてみる事にした。



真実を知るのがなんだか怖くて、口に出せずにいたある事……。



「梵天さん、あなた本当に免許あるんですか……?」



「フフフ。私は神ですよ、シッダールタ」



「返事になってません!」



当ての無いドライブは続く……。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ