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□秘めたる想い
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●秘めたる想い●
「梵天さん」
「何ですか、シッダールタ?」
「いえ、ただ呼んでみたくなって」
梵天は部屋に仕事を持って帰ってきた。
机に向かうその姿を、ソファで本を読みながらチラチラと盗み見ていたシッダールタは、梵天がひとつ伸びをしたのを見てなんとなく呼びかけてみたのだ。
「……なるほど」
何かを納得したように頷いた梵天は、シッダールタの隣に移動するとその肩を抱き寄せた。
「あ、あの、梵天さん?」
「シッダールタが構ってほしいのかと」
こういう大胆な接触にいまだに慣れないシッダールタの顔は真っ赤に染まった。
「……っ!」
図星だったので、何も反論できない。
梵天の顔がゆったりと近づいてきて、唇同士が軽く触れるそんなやさしい口づけが何度か繰り返された。
「嫌がらないんですね」
互いの額をコツンとくっつけた状態で梵天がささやいた。
確かに普段の自分なら、何かしら反発しただろうとシッダールタは思う。
いきなり何をするんですか、みたいな。
「どうせ嫌がったって言いくるめられるだけですし……。それとも抵抗した方が良かったですか?」
「私はどんな貴方でも愛しく思いますが、素直に受け止めて頂けるという事はとても嬉しいものですね、シッダールタ」
目を細め優しく名前を呼んでくる梵天から、シッダールタはプイッっと顔を背ける。
「梵天さんって本当に意地悪です」
「そうですか? 私はシッダールタにだけは甘いつもりですが」
「だって……私のあしらい方、絶対分かってやってるんですっ」
「そんな事はありません。私はどうしたら貴方の心を虜に出来るのかが全く分からないのですから」
そう言いながら梵天の指がシッダールタの唇を優しくなぞる。
実はそんな意地悪な所も含めて、梵天の事が好きだ、なんて。
言った日にはどうなるかわからないから。
まだしばらくは自分だけの秘密――。
シッダールタは心の中でつぶやくのだった。