short
□クリスマスデート
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―――今日はクリスマス。
街中飾り付けられた色とりどりの華やかな装いに、そこかしこから聞こえるクリスマスソング。
落ち葉をさらう風の冷たさなんてなんのその。
笑顔で白い吐息を弾ませながら、足取り軽く行きかう人々。
みんな幸せそう、とブッダの頬は自然と緩む。
ブッダは下界では何世紀ぶりかに、女性の体を装っている。
それもいつものラフなジーンズ姿では無く、淡い色合いのおめかしした姿で。
顔には軽く化粧も施してある。
「外で螺髪を解いているのは、なんか不安だなぁ……」
(マーラが来ちゃったりして)
長さを腰あたりにまで調整した、癖のない艶やかな髪が風になびく。
「イエスの誕生日だからお願いを聞いてあげたけど、なんでこんな事……」
ブッダは慣れない姿にそわそわしながら、朝の事を思い出した――…
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今日はイエスの誕生日。
ブッダはどうやってお祝いしようかと、ちゃぶ台でお茶を飲みながら考えていた。
「ブッダ、ただいまーーーー!」
出かけていたイエスが玄関から入って来ると、両手には服やら化粧品やら装飾品をどっさりと持っていた。
「イ…イエス? それは?」
「何って…女の子のお洋服だよ〜♪ 目一杯おめかししてもらおうって思って」
にっこりと笑うその姿は本当に楽しそうだ。
先日風邪を引いた時に見せてしまった女体の姿がいたくイエスは気に入ったようで、誕生日はその姿でデートをして欲しいと頼まれていたのだった。
ブッダは動きにくい女物の服はあまり好んでおらず、とっさに逃げようとしたが。
「ブッダ……今日は私の誕生日----」
……一瞬で捕まったのだった。
ブッダはイエスに渡されたワンピースに着替え、今は髪をいじられていた。
イエスは突然、フフっと声を立てて笑った。
「私はね…デートってした事が無いんだ。だから……初めてのデートがブッダとで、私は本当に嬉しい」
鏡越しにはにかむように笑うイエスと目が合う。
その笑みに、ブッダは照れたように目を伏せた。
髪が終わり、今度は化粧を施す為にブッダの正面に回る。
イエスは色白できめの細かいブッダの肌に薄く色を載せていく。
「ねぇ、ブッダ」
戸惑いがちにイエスは声を掛ける。
「ブッダの事……今日だけは私のか、か、彼女だと思って接してもいい?」
ブッダは驚いたが、直ぐににこりと笑った。
「いいよ。 今日は特別な日だからね」
今日だけだからね!とお茶目なしぐさで念を押すブッダにイエスは安心したように小さく笑った。
「よし、完成! 綺麗だよ、ブッダ!!」
我ながら素晴らしい出来だと、イエスは惚れ惚れとブッダを見つめている。
当のブッダと言えば。
「……本当? 変じゃない?」
ブッダは不安そうだが、実際十人中十人とも振り返る程の美女に変貌を遂げていた。
ブッダは元々の素材はいいのに、本人は全く自覚が無い。
「こんな姿で外出て笑われないかな……」
ブッダは鏡に映る自分を見ながらポツリと呟いた。