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□相合傘
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「ブッダは私とお買い物、どっちが大事なの!?」
「今は……買い物、かな?」
「っ! ブッダ酷いっ!」
「ドラマの見すぎだよ。しかもそのセリフって女の人が言うやつだよ」
畳に伏せ、ワザとらしく大げさに泣き真似をするイエスの丸まった背中に、ブッダはため息がでた。
「イエス……ちょっと落ち着こうか」
出かけようとエコバッグを手にしていた私だったけど、いったんバッグをJrに掛けて、とりあえずイエスにお茶を入れてあげる事にした。
二人でちゃぶ台を囲む。
「イエス、ブログはいいの?」
「……大丈夫」
「またそんなこと言って…せっぱ詰まってからあわててやり出すんだから君は」
「ブッダがいない方がツラいよ!」
真っ赤に充血した目でじっと見つめてられ、そんな事をいわれるとちょっとかわいそうな気もするが。
「デモハンでもしてたら?」
「ブッダぁ!!」
いきなり首元に抱き着かれる。
「ちょっとイエス! ひげっ、くすぐったいよっ」
しがみついてくるイエスのひげが直接肌にあたって思わず笑ってしまった。
「ブッダぁ……私をひとりにしないで〜」
眉を頼りなく下げた顔に、ブッダの心が折れそうになる。
「だったら君も一緒に買い物に行くかい?」
「ダメ! もうすぐアマゾンからDVDが届くはずだから!」
せっかっくの救いの言葉を、即座に切り捨てられた。
「だったら留守番しててよ」
「だって怖いんだもん!」
こんな子供じみた言い合いは、とてもお互いの弟子たちには見せられないなとブッダは福耳を握りながら心の中で思った。
「苦手なクセに怖いDVDなんか見るからだよ」
絡められる腕がだんだん苦しくなってきて、ブッダはイエスを引き剥がしにかかる。
「だってレビューサイトですっごいオススメされてたんだもん!」
キリがないとブッダは立ち上がった。
もう冷蔵庫はスッカラカンなのだ。
そろそろ夕飯の支度をしなきゃならないし、行くっきゃない!
天気予報で夕方から雨と言っていたし、だんだんと雲行もあやしくなってきたから、雨が降るのも時間の問題だろう。
「雨が降って来たら出かけるのが大変になるから、私行くよ」
ブッダは今度こそエコバッグを手に、逃げるように玄関から出て行った。
「ブッダの悪魔ぁ〜」
玄関から姿を消したブッダからは『見ての通り仏ですけど』っという突っ込みを聞く事は出来なかった。
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「……雨?」
外から聞こえるザーーーという音に、部屋の中で震えていたイエスは窓を覗き混んだ。
「うわぁー…、ひどい雨」
アパートの窓から外を眺めていると、道行く人の色とりどりの傘が目に入る。
ある事に気づき、玄関の傘立てに目をやると案の定。
「ブッダ、傘持っていって無い……」
今まで怖さに震えていた事も、アマゾンの事もすっかりと忘れ、あわてて傘を手に取ると、ブッダが向かったであろうスーパーに向かうイエスであった。