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□独り立ちへの道
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神というには飾らない性質の梵天。
極楽に来てから梵天の好意で、ブッダは彼の屋敷の一部屋を借りて住んでいた。
ここでの生活に慣れるまでは、一緒の方が何かと都合がいいでしょうから、と。
あまりにも熱心に勧めてくるので、たまには彼の優しさに甘えてみようとお世話になる事にしたのだった。
すべて彼のお世話になり、何の不自由もない暮らしをしていたブッダだったが、ようやく極楽での暮らしにも慣れてきてそろそろ独り立ちを考えるようになった。
ここのところ、ブッダはその相談をイエスにしていた。
お隣の天国にいるイエスは、天界で初めてできた友達だった。
「お帰りなさい、シッダールタ。今日もお隣さんからの来客ですか?」
こっそりと気配を消して玄関を目指していたシッダールタの目の前に、突然濃ゆい顔が窓から飛び出してきた。
びっくりする以前にサーッと血の気が引いた。
「た、ただいま帰りました……梵天さん。あの……」
「さっさと入って来なさい。食事が冷めてしまいますよ」
梵天が笑顔を向けてくるが、目が笑ってなくて逆に怖い。
「……怒ってます?」
梵天はいつでも優しく穏やかだが、イエスの事となると少々言葉に棘が感じられるような。
なのでいつもこっそりと出かけていたのだが、いつも知られてしまう。
まぁ、堂々とイエスが訪ねてくるから梵天の耳にも入ってしまうのだろうが。
「早くなさい」
「ハイ……ごめんなさい」
表情はいつも通りで、怒っている様にはまるで見えないが、この人は感情をなかなか表に出さないのでアテにならない。
夕飯の良い匂いが部屋に充満している。
「出かける時には声を掛けるように言ってあるはずですが。言いつけを守れない子には、食事の後でお説教ですよ」
「え……」
「フフ、冗談です。早くお座りなさい。私はお腹が空きました。貴方の帰りが遅いせいで……」
あわてて手を清めて戻ると、いつものように椅子を引かれる。
座った途端、肩に梵天の手が置かれた。
ぎゅっ揉むように捕まれ、力はそれほど入れられてないのに、ものすごいプレッシャーを感じた。
ギクッと、座ったまま上を見上げると、にっこり笑う彼の瞳に剣呑な光を見つけてしまった。
……怖いっ!
次々と食事がテーブルに運ばれてくる。
梵天もブッダの前の席につくと、腕組みをしてじっと見つめてくる。
目の前に並べられた料理は、ブッダの好む物ばかりだった。
が、なんとなく手をつけにくい。
とりあえずいつも通り、両手をあわせて食事のあいさつをする。
「……いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
いつもは安らぐはずの梵天のその穏やかさが、今は本当に怖かった。