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□あなたの側に
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「シッダールタ。あなたはいつだって素直ですよ」
頭上から聞こえる声にブッダがゆっくりと顔を上げると、梵天からとても優しい瞳を向けられた。
「どこがですか」
ブッダは拗ねて見せるように、頬を少し膨らませた。
「言葉にしなくても、ちゃんと私には伝わっています。態度でこんなにも素直に感情表現してくれているのですから」
ニッと笑う梵天に、彼の腕の中でブッダはため息交じりにポツリとつぶやく。
「あなたには本当にかないませんね」
「当たり前です。どれだけ長い間貴方を見つめ続けたと思っているのですか」
茶化したような言葉の中に深い愛情を感じ、嬉しい反面ものすごく恥ずかしくもなり梵天の腕から抜け出した。
「せっかく来て頂いた事ですし、お茶でもお出ししますよ」
「お構いなく。そうそう、今日は泊まって行きますので」
梵天から発せられたその言葉に、ブッダの動きが止まる。
「は?」
「ですから、もう夜も更けましたしこのまま泊まらせて頂きます」
梵天はそう告げると、なぜ知っているのだろうブッダの寝室のある方向へと足を進めた。
その後ろ姿をしばらく呆然と見つめていたブッダだったが、ハッと我に返ると急いで後を追った。
* * *
ブッダは何か言いたげにしながらも、黙って梵天の行動を眺めていた。
「今日は疲れたでしょう、早く寝たほうがいい」
すでにブッダの新品のベッドに、我が物顔で横になった梵天が布団をまくり上げる。
どうせ何を言っても無駄なのだ。
反論は諦めてブッダはしぶしぶと布団に潜り込んだ。
「狭いです。梵天さん、もっとそっちに寄って下さい」
「こうするから大丈夫です」
梵天はブッダを抱き寄せた。
「寝づらいんですけど」
そう言いながらも、梵天の温もりが心地よくて腕の中に納まっていたら抗いがたい眠気が襲ってきた。
「ん……」
完全に眠りに落ちてしまいそうなブッダの額に、梵天は優しくキスを落とし頬を撫でる。
「おやすみなさい、シッダールタ。良い夢を」
安心しきった表情で寝息をたてはじめたブッダを、梵天は満足そうに見つめるのだった。