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□無謀な貴方
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「……シッダールタ、なぜ私に助けを求めないのですか」
頭上から淡々と響く声。
「--------っ!!!」
「無謀ですよ、シッダールタ。あなたは悟ったとはいえ、肉体はただの人間なのですから」
梵天は悠々と乗ってきたガチョウから降りると、悪魔に向けて印を結んだ。
瞬間、悪魔の姿が忽然と消える。
「梵天さん……」
ぐらり、とブッダの身体が傾く。
倒れ込むより早く、梵天はブッダの身体を支えた。
「今回は自分の命こそを大事にしていただかないと。大事な役目なのですから、途中放棄する事は許しませんよ」
咎めるような言葉の内容だけれど、声音はひどくやさしい。
その声と、触れ合っている身体の暖かさに、心の底から安堵してしまったブッダ。
「梵天さん、すみませんでした」
しょんぼりと謝るブッダに、梵天は小さく笑って、軽く額を弾く。
「そういう時はありがとうと言うのが正解ですね」
天界で仕事中だった梵天は、感が働いたのか胸騒ぎを覚え、真っ先にブッダの元へ向かったのだった。
帝釈天が何やら喚いていたが、気にもとめずに。
すると悪魔に狙われているブッダの姿があったという訳だ。
「私は貴方を守護し、導く者です。少しは頼って頂きたいものです」
ブッダは困ったように首をかしげる。
「そんな、神であるあなたに滅相もな……」
「私の事、嫌いですか?」
梵天はブッダの言葉を遮ると、顔を近づけて問う。
ブッダはそんでもない!と首をぶんぶんと振った。
その真剣な眼差しに、自分を案じてくれている思いが心に響く。
「命に危険のある時はお力を貸していただく事にします」
「そうして頂けると嬉しいですね」
「心がけます」
梵天の身体から離れ、ブッダは自分の力で立ち上げると、背筋を伸ばしてにっこりと笑う。
その姿は凛としていて、今にも後光が差しそうなほど神々しかった。
のちの、仏スマイルである。
目を覚ました動物たちは、ブッダの足元にひれ伏すように集まった。
そんなブッダの姿に梵天は呆れたように半目になる。
(呼ぶ気、全くありませんね……)
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その後、ブッダは伝道して回り、数々の困難を自分の手で乗り越える。
人々には最高の悟りを得た仏教の開祖と敬われ、80歳まで生きながらえたのだった。
のちに梵天は、死んでしまう程の腹痛の時くらい呼んでくれればいいのに!っと、入滅したブッダに大いに嘆いたという……
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読んで頂き、ありがとうございました。
梵天さんを神様として敬わっていた頃の仏でした。
入滅後、だんだんと梵天さんの本性が見えてきて……