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□初詣
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物陰から二人を見つめる、何組かの怪しい視線。
「パネーー! さすがミレニアム級の絆パワー! 見せ付けてくれますわイエス様とブッダ様……ヒューヒュー!!」
「ホント、お二人を見てるとアガペーケージ満タンになるわ☆」
ペトロとアンデレは下界に来ていた。
年始の挨拶をと、二人のアパートの部屋を訪ねたのだが不在だったので探しに来たのだった。
そこにいるのは二人だけではない。
「ブッダ様! 新年早々御姿を拝見出来るとは何という幸せ!!!」
その場で五体投地を始めるアナンダ。
「父上が手を清めた聖水……飲みたかった」
うなだれるラーフラ。
皆、アパートでバッタリと出会ったので、ここまで一緒に来たのだった。
参拝を済ませたイエスとブッダが絡みつくような異様な視線に気づき、ふたり揃って顔を引き攣らせた。
「……何で君たちがここにいるんだい?」
せっかくブッダといい雰囲気だったのに。
……聖痕が開きそう。
そんなイエスに比べ、ブッダは現れた4人に笑顔を向ける。
「お久しぶりですね、皆さん」
「ブッダ様、イエス様、ごぶさたしております。 この度はお二人に年始のご挨拶をと思いまして」
アナンダが目を輝かせて、明けましておめでとうございますと発すると、皆も口ぐちに挨拶をする。
「はい、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
穏やかな表情で両手を合わせるブッダは神々しく、とたんにまわりにはお賽銭やお供えが……
「あ、新年早々やっちゃった……って、どうしたの、イエス?」
髪をかきむしりたい衝動を耐えていたイエスは、ハっと我に返ったように引き攣った笑顔を浮かべる。
「子羊たちよ、明けましておめでとう! 今年も良き一年になりますよう……」
なんとか平常心を保とうと格闘しているため、フランクなイエスらしくもない挨拶になったが、格好をつけているのだと思い、皆は気にしていない。
イエスが悶々としている間、皆は和やかに会話をしていた。
「それで、お二人はこの後どうするんスか? もう帰られますか?」
「ううん、まだお参りしかしてないから、出店でも見て回ろうかと……ペトロさんたちは?」
「私たちはお二人しか見てなかったので。まだ何もしてないし食べてないんですよぉ、マジで」
「良かったら一緒に……」
言いかけたブッダをイエスが後ろから羽交い絞めにする。
「何するんだい、イエス!」
そんな様子をペトロとアンデレはにやにやと見ている。
「イエス様!?」
突然の事にアナンダとラーフラは驚くばかり。
「ダメ! ダメったらダメだからねっ!」
ブッダを後ろから抱きしめて、じりじりと後退して距離を取る。
「イエス、どうしたの!?」
意味の分からないイエスの行動に首を傾げるブッダ。
「今年の最初の日はブッダとふたりだけで過ごしたい……」
ポツリとしたイエスのつぶやきがブッダの耳に入った。
「も〜、君は……。しょうがないなぁ」
「ごめんね、皆。せっかく来てくれたんだけど、二人で用事を済ませなきゃならないんだった」
「そうですか! 年始ですからね。お二人ほどの方なら忙しいのも頷けます!」
ペトロの言葉に続き、アンデレも。
「私たちは適当に観光して行きますので、お二人は気にせずにどうぞ!」
「ブッダ様、お忙しい所お声を掛けて頂きありがとうございました」
ブッダはまたもや五体投地しようとするアナンダとラーフラを止め、イエスにぐいぐいと腕を引かれながら短く別れを告げる。
天界の4人は手を振り、二人の背を見送った……。