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□独り立ちへの道
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「……あの、梵天さん」
「何です? 口に合わない物でも?」
「いえ、食事は美味しいです。その……」
「貴方は隠し事が下手なんです」
唐突に梵天に言われ、箸を落としそうになった。
「私はイエス様と会う事を反対している訳ではないんです。むしろよそと交流を持つことは好ましい事です。まして相手は神の子ですしね。」
「…………」
「ただですね……」
小さくため息をつく梵天に、ブッダは息を詰める。
「なぜ、私にではなく、あの方に大切な相談をするんですか?」
今度こそ箸を落としたブッダだった。
「な……! なぜその事をっ」
「知ってますとも。貴方の事ならなんなりと」
「……覗きですか?」
「そんなぶしつけな。私は神ですので」
梵天はわざわざ侍女から新しい箸を受け取ると、席を立ちブッダに手渡した。
その際、梵天は囁くようにブッダの耳に唇を近付けてささやいた。
「貴方の事になると、私はとても嫉妬深くなってしまうようです」
言葉の内容に、カッと頭に血が昇ったブッダは、無言でがつがつと食事を口に運ぶ。
梵天はそんな初心な反応を示すブッダを楽しそうに眺めている。
ふだんはしっかり者で通っているブッダの、眉を情けなく下げて、聡明な瞳には涙を溜めているその様子に、梵天は思わず喉が鳴りそうだった。
食事よりも、食べたいものが目の前に……
「フフ。独り暮らしですか……そろそろ頃合いですかね」
このままずっと一緒にいたら、私の貴方への愛が暴走してしまいそうですし。
その言葉に、口に入れていた食べ物を喉に詰まらせ、盛大に咽たブッダだった。
そうして、ブッダは自分の事務所と住居を持つことを許された。
とは言っても、別々に暮らしたからといって、毎日のように梵天が訪ねて来るので、一緒に暮らしていた頃と大して変わらない生活になるのだったが。
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最後まで読んで頂きありがとうございました。
ラブラブを目指していたんですが、やっぱり恋愛未満な話になってしまいました。
拍手のコメントでご要望をいただいたので、やさしい梵天さんに仕上げてみました。