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□バレンタインデー
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普段なら決して入らないような、見るからに高そうな店にブッダはいた。
「シッダールタはどんな服が良いですか?」
熱心に物色している梵天。
「セーターとジーンズがいいです」
この店にはとうていあるはずもない品をピックアップする懲りないブッダ。
「このワンピースにしましょう」
「あっさり無視したうえに、勝手に決めた!」
腕を引かれ、思わずよろけてその胸に飛び込む形になった。
「おや、今日のシッダールタは積極的ですね」
「不本意ですがね!」
ブッダは梵天が手にしているワンピースをひったくるように取ると、試着室へ入って行った。
「脱がせてさしあげましょうか?」
試着室の扉を閉めると、後ろからセーターをたくし上げられた。
「……なぜ、さも当たり前のように一緒に中に入ってきているんですか、あなたは」
裾を下ろすブッダと上げようとする梵天の、密かな攻防が静かに繰り広げられる。
「今更何を恥ずかしがる事があるのですか。貴方にはもっと恥ずかしい過去が……」
「出て行って下さいっ!!」
「シッダールタの恥ずかしがり屋にも困ったものですね」
外に追い出した梵天の、わざとらしいつぶやきが聞こえてきた。
自分は普通です!と心底叫びたくなったブッダであった。