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□バレンタインデー
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「シッダールタ、開けていいですか?」
試着室のドアノブをガチャガチャさせる梵天。
返事を待つことは出来ないのか……
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
実はすでに着替えの済んでいたブッダは、鏡に映る自分を前にとまどっていた。
梵天が選んでくれたワンピースはピッタリのサイズだった。
薄いブルーのワンピースは、丸く開いた胸元がレースで縁どられていて、胸下の切り替え部にリボンがついた女の子らしい可愛いデザインだ。
膝上丈のスカートはヒラヒラのふわふわで、なんだか落ち着かない。
なんだか梵天の目に晒すのが恥ずかくなり、どうしようかと思っていた所に、梵天のせかす声。
今は静かになったドアノブを見つめ、このままこうしていたら、ノブが壊されるのが目に見えているので、ブッダはしぶしぶとドアを開いたのだった。
「……お待たせしました」
「………」
「……梵天さん?」
ドアを開けたらすぐそこに、腕を組んで仁王立ちしていた梵天が目に入り、シッダールタはビクっとなった。
なぜいつも心臓に悪いのか、このひとは。
「……似合い、ますか?」
ワンピースの裾を抑えながら声を掛けるが、なぜか無言の梵天。
じっと見つめてくる目が、いつも以上に迫力がある。
似合わないのかと心配になるが、自分で選んだ訳ではないし文句を言われる筋合いはないはずだ。
いつまでも口を開かない梵天に、ブッダは困ったように首をかしげるのだった。