―Novel―

□花言葉は『   』
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「き〜ど〜うクン」

今日も不動が鬼道に
いらないちょっかいを
出している

鬼道はうるさい黙れと
言っているがその表情は
まんざらでもなさそうだ

「…」

一見犬猿の仲にも見える
二人だがよく見ると
腹立つくらいにイチャついている

リア充爆破しろ…

隣をこっそりと盗み見る

整った横顔が興味なさそうに
鬼道と不動を見ている

きっと彼にとっては
この一緒に居るオレすら
どうだっていい景色程度にしか
見えていないのだろう

「ひ…ヒロト」

勇気を出して隣に居る
彼に呼び掛けた

「ん?なんだい?」

ゆっくりとヒロトは
オレの方を向いた

その目には鮮やかな色の
髪をポニーテールにして
まとめている少年が写っていた

オレ風丸一朗太の姿だ

ヒロトの目にはオレは
写っているが見ていない

ここ最近ヒロトは
ずっと何か見えないものを
見ている…上の空で
練習にも身が入ってない

「ヒロト最近ずっと
上の空のようだけど
何を見てるんだ?」

「別に何を見てるって
分けではないけど…強いて言えば
そこの花壇の隅っこに
生えているパンジーかな」

「パンジー?」

「うんパンジー
チンパンジーとかじゃないよ」

「誰もそんなこと言ってないだろ」

「君なら言いそうだったからさ」

確かにヒロトの目線は花壇の
隅の方に忘れられたように
一輪だけ咲いているパンジーに
向けられていた

よくある黄色のパンジーを
なぜそこまで熱心に
見ているのだろう…?

「パンジー好きだったか?」

「別に」

「そうか」

好きでなければなぜ?

疑問は心の中にモヤモヤと
渦巻いたままその日は
二人で黙って花を見続けた

次の日も…また次の日も
ヒロトはボンヤリと
あのパンジーを見ていた

流石に気になって
3日目の今日ヒロトに
なぜあの花をずっと
見ているのかを
問いただすことにした

「なぜ見ているか?」

「あぁ」

「内緒☆」

その時のヒロトの表情は
俗に言うテヘペロ顔
だったんだろうな不思議と
殺意しか芽生えなかったので

近くにあったサッカボールで
ウザイ顔面を殴ってやった

「アウチッ!!!
ひどいなぁ美男子顔が
残念なことになっちゃうだろ」

「それで理由は?」

「わぁひどい暴力行為に
ついての謝罪はないの?
まぁいいけどさ

…そんなに知りたいの?」

「気になることはさっさと
解決する質なんだ」

ん〜だのう〜だのと
ヒロトは唸りながら考えていたが
ついに決心がついたようで

「分かったよ教える
きっと、絶対君にとっては
どうでもいい事だと思うけどね」

「早く話せよ」

「うん!あのね
パンジーの花言葉って
知ってる?」

「…は?」

「パンジーの花言葉は
『独りにしないで』
なんだってさ知ってた?」

「いや知らなかった」

「パンジーの花言葉に
すごい共感しちゃってさ」

「…」

「独りぼっちであそこに
咲いてるパンジー見てたら
なんか…昔を思い出してさ」

ヒロトはそう言うと
少し悲しそうに笑った

「大丈夫だ…」

「え?」

「オレ達はもう唯一無二の
仲間なんだから独りになんか
絶対になれないぞ!」

思わず自分の言ったことに
クサさを感じてヒロトから
視線を反らしてパンジーを見る

ヒロトもつられてパンジーを見る

男子二人が深刻な顔をして
一輪の華麗なパンジーを
穴が空くほどに見ている様は
傍目からは不気味にしか
見えないだろうな…

「…」

「オレは独りじゃない…」

「うん?」

ヒロトがボソリと
自分に言い聞かせるように言った

「ありがとう!
なんだかスッキリした
気分になれたよ」

「別になにもしてないが?」

「この数日間ずっと
オレの為に貴重な練習時間
放棄して一緒にパンジー
見てくれたでしょ?」

「それはお前が心配だったから」

「その気持ち!その気持ちが
嬉しかったんだよありがとう」

にこりと本当に嬉しそうに
微笑んだ後ヒロトは
グラウンドに駆けていった

久々の練習だ…
数日間の遅れを取り戻さないとな

パンジーをもう一度見たら
隣には小さな白い花が咲いていた

「なんだお前はもう
独りじゃないんだな
…よかったな」

パンジーにそう言うと
オレもヒロトの後を追って
グラウンドに走っていった

-end-
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