魔王の帰還

□第1話 魔王の帰還
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201×年5月中旬

久しぶりに日本の地に降り立ち、長時間のフライトで疲れも溜まり固まった体を伸ばした。

「んぅ〜、長旅は疲れたにゃ〜。」

緩やかな口調で語尾をにゃ〜としているが、これを普通の成人男性が口にしていたら、うわぁ痛い奴だなとか指を差され笑われただろう。

けれど彼の容貌が整い過ぎていて、笑いもなく痛い人だと指差されやしない。

190cmには届かない高身長に肩より長めの赤紫色(ワインレッド)の髪している。

鼻筋は高く通っていて、双眸は赤い。
少し眠たそうにも見える下がった目尻に泣き黒子がある。

類い稀なる超絶な美丈夫ならば、にゃ〜だとか変わった喋り方をしても許されてしまうだろう。


「さぁ〜てぇ〜。
愛しの箱庭に向かうとするかにゃ〜」

クスリと笑みを浮かべ歩き出せば空港内に騒ぎが起こった。

黄色い歓声に嫌な顔一つせずに応えながら、迎えが来ているであろう場所へと向うのだった。



201×年 5月下旬

職務放棄を続ける役員に押し付けられた仕事。
溜まりに溜まった書類を鬼気迫る勢いでこなす人物達が生徒会室に居た。

清潔感を感じさせる黒い髪を持ち。
笑みを浮かべればまるで少女のような可愛らしい顔立ちをしている、高校生にしては小柄な生徒は高坂優里。

生徒会で副会長を勤める高坂の他に、大きめのソファでは激務に追われ力尽きてしまった会計の姿があった。

高坂は時よりソファで眠っている会計に声を掛けようと素振りを見せるが、自分より多くの激務をこなしている人間を無理に起こすのは悪い気がして声をかけられないで居た。

会計をしている青城ミナミは、押し付けられた仕事を片付けつつ、幼馴染みが所属する風紀委員会でも何かを手伝っている。
それに毎週の休日になると学園から許可を貰い、学生の傍らでモデルの仕事もしていた。

いつ寝ているか分からない状態で、愚痴る事もせず仕事をこなす姿を見ているから、今は力尽きて眠っている青城を起こさずにいた。

昨年の上級生達は自分達のようにこんなにも仕事に追われていたのだろうか?

しかし高坂は知っていた。
その答えはNoだ。


桜が散り4月も終わりに差し掛かり頃、季節外れに転校生がやって来た。
季節外れとは言え外部から如月学園の試験と厳しい面接をパスしたはずの転校生。

事前に生徒会に届いた書類には、入試テストは全ての教科で満点に近いしい成績を叩き出した記されていた。
けれどそれは何かしらを操作して作られた書類だというのは分かっている。

その証拠が入試テストに後に行われる、テストよりも難関と言われる面接にあの転校生が合格出来ているのが可笑しいのだ。

勝ち気で天真爛漫。
人見知りしないのは長所とも言える。

しかし注意・忠告を聞かず。
他人に指示される事を嫌い、一度でも注意・忠告した人間を極端に敵対し被害妄想を膨らませる。

天真爛漫と言うより幼い子供が成長せずに身体が大きくなっただけ。
言動は幼稚。
礼節を軽んじていて知識はなく、学力もなく本当にこの如月学園には相応しくない人間だ。

何よりこの転校生が厄介だったのは、学園内で高い人気を持つ人間と距離を縮めてしまったのだ。。

如月学園は初等部を除き、中等部からは女人禁制の寮生活を強いられる。
長期休み以外は許可が出ない限り外出は禁止とされている。
女人禁制で特殊な監獄に親い学園に長く居れば、思春期を迎える少年達の恋愛対象や性対象が必然的に男性へと向かう。

テレビや雑誌で見る遠くの芸能人より、(雑誌に出ている人間も学園には在籍しているが)
身近に居る整った美貌の持つ生徒は学園内で高い人気があり、人気者には親衛隊という集団が結成されている。

多くの親衛隊は対象者が学園で快適に生活出来るようにお手伝いをするという名目で結成されているが、その殆どが親衛隊を性の捌け口として使っていた。

高坂以外。
会長、会計、書記が親衛隊をセフレとして扱っていたが、転校生が現れるとその状態は変化を見せた。

散々性の捌け口として扱ってきた親衛隊を、青城以外の人間は転校生の言葉を鵜呑みにして一方的に突き放した。

多くの親衛隊が突き付けられる中、青城は転校生に無関心を貫いていて今も親衛隊と良好な関係を築き手綱を確り掴んでいる。

しかし一部を除く親衛隊以外は対象者から一方的に突き放され、親衛隊を解散しろと強い口調で言われてしまう。

怒り悲しみの感情が当然ながら転校生に向かうが、今の状況で何か行動をするのは解散を突き付けらた親衛隊にとっても得策ではない。

ああだ、こうだと話し合いが行われる中。

転校生に纏わりつく篠宮茜を排除しろと…。

恋に溺れた人間の多くが親衛隊に命令を下したのだ。
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