最強純情男に祝福を

□第3話
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「どうした静雄、元気ないな」


上司からの言葉にはっとするバーテン服の男――平和島静雄は「なんでもないっす」とそっけなく返した。


「ならいいんだけどな」


特に問い詰めるわけでもなく、上司の田中トムは手に持つリストに書かれている人物のプロフィールを読み上げた。

静雄の就いている仕事は借金取りだ。出会い系サイトの金を踏み倒す者の家に訪れ、金を徴収する。反抗するならば力で物を言わせる。
静雄の仕事は主に後者だ。元からあまり気長でない彼は徴収ならず、最初から力で解決しようとする。

仕事といえるのかは定かではないが・・・今はそれで飯にありついている。
そして今まさに仕事中なのだ。


「静雄・・・・本当に大丈夫かぁ?溜息ばっかついて」

「あ・・・・・・うっす」


力なく返事をする静雄に、トムは首を傾げた。
いつも何処かそっけない静雄だが、今日はいつもとは訳が違う。
目が明後日を見据えている。

折原臨也という、静雄の元同級生を追いかけ、何処かに行ってしまった静雄を回収してからずっとこのような状況だ。
折原臨也と何かあったのか。おそらくはいつものように取り逃がしてしまったのだろうが・・・・・

否、それならもっと殺気というか、今にも舌打ちが聴こえそうな表情をしているはずだ。その時は実際舌打ちは聞こえるのだが。
何か心に悩み事でも抱えているような――
あれこれ考えていたが、とあるアパートの前に着くと先程までの思考を一切消した。


「・・・・っと、2階だな」


手元のリストに書かれている住所と目の前のアパートを見比べ、トムは頷いた。
本日何件目、そして本日何人目かの静雄の鉄拳の餌食となる者の住処。

階段を上り、リストと表札を見比べ、頷く。
それを合図に静雄がインターホンを鳴らした。
かすかに聞こえる安っぽいベルの音が耳につく。
しかし、ドアが開く様子はなかった。


「いねーな・・・・モーターが動いてねぇ。
 あ、鍵壊すなよ」


ドアノブを力尽くで捻り潰そうとする静雄を即座に制止する。
彼は渋々ながらもドアノブから手を引いた。


「さて、次は―――」


階段を下り、リスト表を一枚捲る。
すると、視界の端っこで静雄の動きが止まるのが分かった。
不思議に思ってそちらを見ると何やら暗い路地に人影が2つ見えた。
男女のようだ。女性の方は首を横に振っている。


「ナンパかねぇ。ま、ブクロではよくある話だ」


トムは軽く流し、リストに目を落とす。
すると、彼の視界の端から静雄の影が消えた。
驚いて顔を上げると、静雄が男女2人の方へゆらりゆらりと近づくのが目に入った。
思わず引き留めようと手を伸ばすが、途中でその動きを止めた。
なぜなら、歩きながら拳をバキボキと鳴らす彼の姿が見えたからだ。


「あ、だめだこりゃ」


そう呟いたトムは、脱兎の如く、一目散にその場から「避難」した。
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