策士、策に溺れる

□第3話
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さて、この前新羅からアドバイスを色々と貰ったものの・・・・・あまりあてにならないな。
「ひたすら話しかけてみる」――いや、一回話しかけただけであの酷い反応だ。きっともっと嫌われる。
「あえて干渉しない」――いや、まだ会って間もないのに何もしないなんて、それこそ馬鹿だろ。いや、新羅は馬鹿か。
そもそも、あの猫耳ヘルメットのことが好きな新羅に聞くべきじゃなかったな・・・・・俺としたことが。相談相手を間違えた。

まあ、とりあえず自分のやり方で彼女を落としてみようじゃないか。




「おはよう、名無しの名無しさんさん」

「・・・・・・・・・・・おはよう」


うわ、朝から不機嫌そう。
せっかく俺が取り巻きを放置してまで話しかけているというのに。


「あはは、どうしたの?名無しのさんって低血圧?」

「・・・・・・・・」


依然、彼女の視線は手に持つ文庫本に注がれたまま。俺の方なんて見向きもしない。
「なんて奴だ」という考えが浮かんだものの、俺はこれとばかりに口角を上げた。
・・・・・・・・・さて、ここから仕掛けようじゃないか。


「名無しのさん、人が話してるのに目も合わせないなんて酷いんじゃないかなあ?」


ページを捲る彼女の手が止まる。
よし、来た。かかった。


「それに、始業式の日のあの対応の仕方。名前聞かれてるのに答えなんて、どうかと思うよ?」

「・・・・・・」

「あ、もしかして男と関わったことがあんまりないから緊張しちゃったのかな?」

「・・・・・・・・」


彼女の体は完全に硬直している。
いや――体、というより周りの空気までもが固まっているように見える。
よし、あと一押しだ・・・・・!


「図星?それなら仕方ないよね。まあ、相手が俺だし、当たり前か」


勝ち誇ったように言い放つ俺。
俺が考えた作戦その1――「ひたすら挑発」
「なんて幼稚な考えなんだ」と思う人もいるかもしれない。実際自分でもそう思っている。
でも、こうすれば名無しの名無しさんは嫌でも俺に関わることになる。きっと無視できないはず。
そうすれば、少しでも彼女の気を引くことができるのだ。
我ながらなんて素晴らしい考えなんだ!・・・・・・・・・・とそこまで過剰評価はしないものの、いい考えだとは思っている。
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