夢小説9

□ないものねだり
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「貧乏のくせに生意気な」
琉茅は確かにそう言った。
俺は一瞬目を見開かせてひゅん、とシャーペンを首元に持って行くと琉茅は鼻で笑った。
白い肌からふつふつと汗の玉がにじみ出ていた。
今日の最高気温は32℃だそうだ。
でも琉茅に言われた通り俺んちは貧乏だ。
それでいて琉茅の家はそれなりに裕福だった。
だから腹が立った。
「確かにそうですねィ、でも人生を楽しんでるのは間違いなく俺でィ」
自慢げにシャーペンをくるくる回した。
そんな俺を冷たい表情で見る。
金はねぇけど楽しい俺と金はあるけどつまんねぇ琉茅とじゃお互い欲している物が見事に交差している。
ないものねだり、とはこういうことを言う。
「死にたいと思う私と生きたいと思う沖田じゃ違うって言いたいの?」
「ああ」
「じゃあ、もし私と沖田が事故に遭ってどこかの臓器を移植しなきゃならなくなったら、間違いなく死ぬのは沖田だけどね」
琉茅は得意げにそう言った。
俺は悔しくてたまらなかった。
こんな奴に俺の将来を心配されたくない。
して欲しくもない。
「じゃあ、今すぐあんたを殺してやりまさァ」
にやりと笑ってキリキリ、とカッターを出すと琉茅は余裕な顔をしたまま筆箱からハサミを取りだした。
「お互い恨みっこなしで…」
「先に死んだ方が負けってことで…」
男のくせに女に手を出す俺も俺だけど女のくせに男を仕留めようとする琉茅も琉茅だ。
自分の大量の血を見るのも人間を切り刻む感覚も、頭まで響く傷口の痛みもみんながみんな新鮮でにやけが止まらなかった。
どうしよう、俺はまだ死にたくない。
琉茅は全く逆のことを思っているようだった。


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