リクエスト 2

□月と桜と
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酒が適度に入ったからか、それとも桜の魔法か、今日はいがみ合うことなく和気藹々と酒を酌み交わす。
土方は口を開けば、近藤さんが、総悟がと、その名ばかりで(他の名前も出ていたようだが単に銀時が山崎ぐらいしかわからなかった)、少しばかりむっとしたが、よく考えると自分だってしてる話は神楽や新八のものばかりだ。
2人の共通の話題といえば、それぐらいしかないのが現状だった。
銀時はそんな些細なことに気が付いて、少し落ち込んだ。

「何だよ?もうへばったのか?ほら、呑め」

土方が一升瓶を持ち、空いたワンカップのコップに注ぎ足す。
一升瓶は土方が持ってきたものらしい。

「そんなに1人で呑むつもりだったのか?」

ふとそんな疑問が口を突いて出た。確か彼はそんなに酒が強くないはずだ。
前に花見の場所がブッキングして一緒に宴会をした時に、早々に呑み潰れていた事を思い出す。
土方は銀時がなにを思い出したのか、悟ったのだろう。その顔は不機嫌そうに眇められた。
そして、持っていた一升瓶を桜の根元に傾ける。重力に従い、酒がそこに撒き散らされた。

「うわ!勿体ねぇ!!」

地面に吸い取られていく酒を見て思わず貧乏臭いことを喚く銀時を、土方はけらけら笑って見ている。
相当酔いが回っているようだった。
彼がこんなに無邪気に笑うところを、見たことはない。
銀時はつい目が奪われた。

「せこいこと言うな。元々こうするつもりで持ってきたんだ」

まるで愛しいモノを見るように、土方は吸い込まれていく酒を見ている。
そういえば・・・、と今朝見た新聞記事を思い出した。
昨日テロがあり、それに巻き込まれた真選組の隊士が2名殉死した、とそこには載っていたのだ。
世間では鬼だと恐れられる彼が、本当は誰よりも心優しい事を銀時は知っている。

 嗚呼、餞なのか・・・

銀時は思わず胸が苦しくなった。
こんな風にたった一人で、彼らを送るつもりだったのだ。彼は・・・。

「桜が酔っ払ったら、花はもっとピンクに染まるのかな?」

彼に笑ってもらいたくて、銀時はそう言った。
すると土方はきょとんと銀時を見詰める。
そして、酒をトンと地面に置いたのだ。

「そうだな。これ以上やって桜が酔っ払っちまったら、花が全部散るかもな」

土方はそう言って、銀時に蕩けるような儚げな微笑を向けた。
その彼に胸を高鳴らせながら、コップに酒を注いで渡してやる。

「今日は付き合ってやる。散々呑もうぜ」

にやりと笑う銀時に、土方も負けじと笑みを浮かべ

「上等だ」

と受けて立った。




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