Crusade 第一章
□第一話「戦乱の少年」
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岩石と僅かな緑で構成された砂礫の大地。その大地に、二人の人物が乾いた足音を響かせていた。
二人が歩く狭い谷底の上では、アクレシア帝国とベラート連邦による大規模戦闘が行われている。先程入った連絡によれば、既にほとんど戦闘は終了したとの事だった。
先頭を歩く人物がふと足を止める。モノアイの瞳が上を見上げた。
「ラーナ艦長、あれを」
抑揚のない機会音声が告げる。彼としては少々の驚きをもってその言葉を発したのだが、脳以外が全て機械化されたその身体では、それを声で表現するのは不可能であった。
「どうした? フュロン」
後ろにいた人物が彼の言葉に答える。僅かに風に揺れる赤い髪をうっとおしそうにかきあげると、フュロンと呼ばれたアクレシア人の隣にやって来た。並んで立つと、その身長には二倍近くの差がある。彼女がベラート人であるのは、その小柄な体格から一目瞭然だった。
「人がいます」
フュロンが右側の岩壁から生えた小さな木を指差す。その枝葉の上には、一人の人間がうつ伏せに倒れていた。
「また死体かい。いくらあたしに関係ないとはいえ、同族がこうもやられると流石に同情しちまうねぇ……」
ラーナがそう言ってため息をつく。
だが、フュロンはその言葉に首を振った。
「いえ、生きています」
「何?」
ラーナが顔を曇らせる。俄かには信じられなかったようだ。
「私の生体センサーが生命反応をキャッチしています。間違いありません」
「……生存確率は?」
「今すぐ治療して五分五分というところでしょうか」
「五分五分か……どうしようかねぇ……」
ラーナがぽりぽりと頭をかく。どうやら本気で迷っているらしい。
「先日歩兵がもう一人欲しいと仰っておりませんでしたか?」
「……そういえばそうだったねぇ……」
ラーナはフュロンの言葉にそう答えると、ゴーグルの左側にある小さなスイッチを押した。
「アイリス、聞こえるかい?」
「は、はい! な、何でしょうか艦長!?」
暫くすると、ラーナの耳に聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。
「今からケガ人を一人搬送する。治療の準備を」
「りょ、了解です!」
すぐさまスピーカーの向こうが慌しくなる。それを確認して、ラーナは通信を切断した。
「フュロン、あれを回収しな」
「了解です、艦長」
ラーナの言葉に従いフュロンは崖をよじ登ると、ひょいっと枝の上から倒れた男の身体を担ぎ上げた。
ラーナが空を見上げる。上空では、無数の白い宇宙船が次々とこの地を飛び立っていくところだった。
「そろそろ仕事だね……。戻るよ、フュロン!」
「はい」
フュロンは男を肩に担ぐと、ラーナの後に続いて船へと引き返していった。