Crusade 第一章

□第一話「戦乱の少年」
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 迫る鋼鉄の軍団。軋む金属の足音。少しずつ近づいてくるその恐怖に、少年は手に持っていた剣をきつく握りしめた。
 ゴーグルに取りつけられたレーダーに映るのは、敵軍を示す赤い点のみ。友軍を示す緑の点は一つもない。すなわち、全滅である。ただ一人、少年を除いては。
 複数の金属の足音が背後に迫ってくる。少年の前にあるのは、暗くて底も見えないような崖のみ。逃げ場は、ない。
 一歩、また一歩、足音は確実に少年の方へ向かってくる。彼らに慈悲の心などない。ただ、目の前の敵を蹴散らすのみ。少年の仲間達も、彼らの手によって無残な死を遂げた。

(アクレシアめ……)

 散っていった仲間達の事を思い出し、少年の心に憎しみの炎が宿る。故郷に家族を残してきた者。故郷に恋人を置いてきた者。誰もが、二度と帰る事はなくなった。
そして、彼らと同じ様に、少年も故郷に残してきたものがあった。
 必ず帰る。出発の前、そう約束した。破るわけにはいかない。もう二度と悲しませないと、この胸に誓ったのだから。
 足音がぴたりと背後で止まる。岩陰に隠れていた少年は、その瞬間を待っていた。

 「はぁぁぁ!!」

 岩陰から飛び出した少年は、渾身の力を振り絞って剣を振るった。巨大な図体をした彼らは、強靭ではあるが動きは鈍い。剣は彼の持つ少年の身体ほどもあろうかという巨大な斧に阻まれることなく、先頭のアクレシア人の胴体を貫いた。巨大な図体が、まるでスローモーションのようにゆっくりと地面に倒れる。だがその先には、アクレシア最大の武器である重火器、グレネ―ドランチャーを構えた別のアクレシア人が立っていた。

「しまっ……!」

 そして、少年が全てを言い終えるより早く、グレネードランチャーの砲口が火を吹いた。猛烈な炎の塊と爆風が少年を襲う。なんとか本能的に直撃を避けたものの、小柄な少年の身体は高々と宙を舞い、悲鳴を上げる間もなく深い崖下へと急降下していった。
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