LIAR
□#07
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見渡す限り一面に広がる薄紅。この花を見ると春の訪れを感じる方がほとんどだろう。そんなこの木々の下に死体が埋められているなんて言ったのは誰だったか。その噂の発端は置いておいて、だ。死体ではないにせよ屍の類がこの木下に転がるというのはあながち間違っていないのかもしれない。
桜と言えば花見、花見と言えば酔っ払いな訳で、ゴロゴロとまあ屍は転がるだろう。江戸の花見も例外ではないらしく、花見会場はもう酒気で溢れかえっていた。
酔ってなくても酔ったふりして上司の秘密暴露しろ
書類を片付けていたため少し遅れてやって来た紗良が見たのは、美女が振り下ろしたピコピコハンマーが近藤の頭及びヘルメットをかち割らんとする場面だった。
「何コレ、どゆこと!?」
そのあとその美女は辺りをひと睨みして、場を収めた(厳密には震え上がらせた)のだからたいしたものだ。
とりあえず紗良は近藤の元へ駆け寄るが、一応凶器もピコピコハンマーなのだ大事には至らんだろうと少し離れた場所に寝かしておくに留めた。
「紗良さんもう来れたんスか?」
「うん、呑みたいから頑張ったわ。」
「この間まで未成年だから呑めねえつってたのだれだよ!」
「アタシやよ!」
「ドヤ顔すんなよー。」
「いいの!好きなモンは好きなの。」
彼女の姿を見つけたのは医療班の隊士たち。医療班ということは即ちそろばん隊士であり、彼らは基本的戦場へは出ない。それが関係しているか否かは不明だが、彼女を早く迎え入れた連中だ。彼女の部下に当たる者もおるためそうでなくては困るのだが。
「それより何この状況…。」
「なァんかまた、副長がケンカふっかけたんスよ。」
まったく、あの男はこんなところで一般人捕まえて何をしているんだか。
「速ェェ!!ものスゲェ速ェェ!!」
わあっと歓声が上がった方をみれば、叩いてかぶってジャンケンポンをしている沖田と神楽。
「アレ?あの子万事屋の…?」
そこまで口から出たところで嫌な予感が頭をよぎった。
「ホゥ、総悟と互角にやりあうたァ何者だ?あの娘。奴ァ頭は空だが腕は真選組でも最強をうたわれる男だぜ…。」
「互角だァ?ウチの神楽にヒトが勝てると思ってんの?やりあうたはなァ絶滅寸前の戦闘種族“夜兎”なんだぜ、すごいんだぜ〜。」
「なんだとウチの総悟なんかなァ…。」
「(やっぱりかァァ!)」
気が合わないだろうと思っていたが、本当にそうとは。部下自慢をしあう銀髪と黒髪。完全に出来上がった酔っ払い同士のケンカだ。新八が辛うじてツッコんではいるが、2人が動じる様子はない。
「(てか、今アイツ夜兎って言うた…?)」
中々の極秘事項であろうことをポロリとこぼしたように聞こえたが、聞かなかったことにしてやろうと追及はやめておいた。
そんな酔っ払いはよそ目に沖田と神楽の対決は叩いてかぶってジャンケンポンの枠を超え最早ただの殴り合いと化していた。
「だからルール守れって言ってんだろーがァァ!!」
「やっぱり、キミも来てたんやね。」
「貴女は!紗良さん!」
「覚えててくれたんや!ありがと。」
「アレなんとかしてくださいよ…。」
「無理無理。やりたくない。」
「そんなこと言わないで…ってオイぃぃぃ!!何やってんだ!」
大声でなおもツッコミ続ける新八の心労虚しく酔っ払い二人は横でリバース。弱いくせになぜそこまで飲む。
「テキーラとかチャンポンするから!」
「このままじゃ勝負つかねーよ。」
新八がそう叫ぶと、酔いどれコンビは斬ってかわしてジャンケンポンで決着を付けようと動き始めた。土方に関してはもう「上等だコラ」しか言えなくなっている。
そこまでで見るに堪えなくなり、まだマトモな奴で飲み直そうと放っておくことにした。
「お互い妙な上司がいて大変ですね。」
「アラ山崎サン、おったんや。」
「いましたよ!最初から!」
「まあ、飲みましょーや。グチでも肴に、ね?」
舞い散る花弁、咲く笑顔
「ウチの上司が貴女にストーカー!?ホンットに申し訳ないです。」
「貴女こそ女の子1人で大変でしょう?」
「そんなことないですよ!これワタシの番号なんでウチのが何か迷惑かけたらすぐ言うてください。」
「気を使わせちゃってゴメンなさいね。なら私の名刺も渡しとくんで、よかったら飲みに来てください。」
優しく笑い合うお妙と紗良。それを見た山崎が凶悪な2人が出会ってしまったと思ったとかいないとか。