Sweets Lovin' You !!

□曖昧距離のバタークッキー
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幼馴染という存在は、友達よりも近く、恋人よりも遠い。
そういう曖昧な距離間を、十数年保ってきた。


自転車に二人乗りをして、ブンちゃんの後ろで悠々と通学をする。
でも、こんな贅沢をするのは稀にブンちゃんが朝練の無い日だけだ。

「夕葉ー。今日、お前のクラス家庭科の調理実習あるよな。」
「あるよー。」
チラ、と目線を上にして、確かエプロン入れたよなー、と持ち物を思い出す。
自転車の前から、ブンちゃんが問いかけてくるのを聞いて、何となく目的を察しながら、それだけを答える。
「何作んの?」
「確かチョコスコーンだよー。」
「それ、俺にちょーだい。」
ほらね。"俺にちょーだい。"って言うと思ってた。そして、私が言う事もいつも決まってる。
「いいよー。ブンちゃんが帰ってくるの待ってるね。」
「やっりィ♪」
特に他にあげたい人も居ないし、いつもブンちゃんにはお世話になってるしね。


今日とは違って、ブンちゃんが朝練で会えない時も、家庭科で何か作ったらブンちゃんに渡すのは暗黙の了解だ。(最初の頃はSNSで催促されてたけど今や当たり前になってしまった。)
大抵、夜ブンちゃんが部活を終えて帰ってくると、SNSで連絡が来る。そうしたら、隣の家から窓を開ける音がする。私も勉強机の前にある窓を開けて。適当な袋に入ったお菓子を反対側の窓に投げる。
ブンちゃんは「っしゃ、サンキュー。」と言ってから、すぐに袋を開けて、その場で食べる。窓越しに世間話をして、「おやすみ」って言って、それぞれ戻る(と言っても、お互いに自分の部屋に居るのだけど。)というのが定番だ。

ブンちゃんにお菓子をあげる人は私だけじゃない。ブンちゃんは、こういう性格だから女子の友達は沢山居る。お菓子をあげたらとっても喜んでくれるから皆嬉しいって言うし。可愛いって言う子も多いし。テニスをしている姿はすごく恰好良いし。仲間想いで、男らしいところもある。

そんなの、一緒に過ごしてきた私が一番よく知っているって思ってるけれど。だからといって、幼馴染以上の関係を望もうとは思わない。
ブンちゃんは、私と違って、とても素敵な人だから。私なんかよりも、ずっと素敵な人と一緒になるんだろうな、って思って来た。
幼馴染にありがちな、「大きくなったら結婚しようね」っていう約束をした事もあるけれど、それはありきたりな幼心。もうお互いに、それを掘り返す事も無いんだろう。


多分、昼休みは、今日家庭科の授業があった女子が群がってるだろうし。放課後テニス部にはもっとすごいギャラリーが居るから、私はいつも学校から持ち帰って、窓越しにお菓子を渡すのだ。



その日も、家庭科の授業は無事終わり。帰宅部の私は、友達と寄り道をしてから家に帰り。
ベッドで雑誌を読みながら、枕付近にはスマホを置いて、幼馴染の帰りを待った。
スマホが音を立てると、やっぱりブンちゃんからだ。いつもの流れで、カーテンと窓を開ける。
「よッ」と軽く手を上げて、期待を込めて窓から少し身を乗り出す。
「部活お疲れ様。そんなに身を乗り出したら危ないよー。」
「つい、早く食べたくてさ。」
ブンちゃんがヘヘッと笑うと、私はわざとらしく「仕方無いな」ってため息をついてから、透明な袋に赤いリボンでとめただけの物を投げる。
「美味そうだなー。いただきまーすッ」
同じ材料で先生に言われた通りに作った物。他の女の子が作ってくれたのも食べたはずなのに、ブンちゃんはいつも嬉しそうに食べてくれる。誰よりも喜んでくれるから、やめられないんだ。

「ブンちゃん食べ過ぎじゃない?」
「そんなことねーよ。まだまだ食えるぜい。」
「幸村くんも、ブンちゃんにお菓子あげすぎちゃダメって。」
ブンちゃんが一瞬お菓子を喉に詰めそうになって、「んぐッ」と苦しそうにする。それから、自分の机に置いていたらしい甘そうなカフェラテを飲んで「夕葉って幸村くんと話すの?」と言った。
「同じクラスだし。席も近いから喋るかなー…。」
「マジか。」
「……まあ、喋る事って言ったら提出物がどうとかって事務的な内容か、ブンちゃんのことくらいだけどね。」
「そりゃどーも。」
ブンちゃんが視線をそらす様子から、多分良い内容では無いことは察しがついたらしい。
私はふふ、と笑いをこぼして「だから、残りは弟くん達にあげて。」って言った。
「ダメ。これは俺の。」
別に周りの誰が居るわけでもないのに、袋の口をしっかりと握り自分に引き寄せる。取らないし、この距離じゃ取れないんだけど、…
「えー、私いっつも会う度にブン兄だけずるいって言われるんだからね。たまには、あげてよ。」
「えー…。」
風が少し冷たくて、くしゃみをすると風邪をひいてはいけない、と今日はお開きになった。
多分、あの様子だとお菓子は全部ブンちゃんの胃袋に入っちゃうだろうから。明日は早く帰ったら、何かお菓子でも作って丸井家に持って行こう。たまには弟くん達にも還元しなきゃ、ブンちゃんがドケチ兄ちゃんになってしまう。







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