LongStory
□幸村復帰編
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幸村くんが退院しました。
まだ家からリハビリには通うらしいけど…
とりあえず、一日経ってから…
幸村くんが「久々に学校に行きたい」と言い出したので、まだ授業には出られないけど、
学校に行くくらいなら…と放課後の生徒が部活をしている時間に車椅子で来ることになった。
…という訳で、
『ごめんね、みんな。幸村くんのワガママに付き合ってくるから。』
と手を合わせて、私は校門へ向かう。
弦)「ああ、承知している。」
蓮)「早く行ってやれ、そんな謝ることでもない。
精市が復帰した後の俺達の部活上の生命に関わる問題だからな。」
死活問題なのか…。
家から学校までは幸村くんのお母さんが車で連れてきてくれることになっているのだ。
赤)「部長専属マネージャーじゃないのになぁ、」
ブ)「拗ねんなよ、そんなに夕葉が好きか!!」
赤)「好きッスよ。」
「「「………え?」」」
『幸村くん!!』
幸村くんのお母さんは「ごめんなさいね、ワガママに付き合わせて…」なんて言いながらも、少し嬉しそうだった。
やはり退院できたのは大きいのだろう、いつか手術で会った時とは全然表情が違っていて安心した。
『いえ、それじゃあ、少し探検してきます。』
私はゆっくり車椅子を押す。
『重い…』
精)「ここに来た時に抱きとめた俺に言えるセリフか。」
『根に持ちすぎ。』
まずどこに行きたいか聞くと、「花壇」と言われた。
精)「…枯れてても、やっぱ花壇は見ておきたいな。」
美化委員の仕事である花の水遣りなんて、今まで幸村くんしか真面目にしていなかったから、「枯れている」と決め付けていた。
私は知っていたけど、『枯れてないよ』なんて言わずに、花壇まで車椅子を押した。
精)「…誰が水遣りしてくれたんだろう。」
『誰だろうね、…でも誰かがやってくれるんだよ。』
精)「うん、…嬉しいね。」
幸村くんは優しく花壇を見ていた。
雅)「何が誰か、じゃ…、毎朝水遣りしとったクセに、」
『ま、雅治!!練習抜けてきちゃ駄目でしょ?!後でテニスコートまで行くから!!』
雅)「誤魔化さんでもええじゃろ、…毎朝水遣りしよったのはお前さんじゃ。」
精)「夕葉が…?」
『………後半は、みんなにしてもらったからね、』
雅)「認めるのが早いのぅ、」
『そういう雅治も手伝ってくれたじゃん、』
雅)「気づいたのは夕葉だけじゃった。
…“幸村が帰って来たときに落胆しないように、協力して欲しい”って頼んできたじゃろ。」
幸村くんはフフッと笑って、「ありがと」と笑顔を向けた。
『別に…花が可哀想だっただけだよ。』
そのままテニスコートに向かう。
精)「もうすぐ、この場所に帰ってくるから…」
『うん、』
練習していた部員たちが幸村くんに気づく。
レギュラー、先輩後輩問わずみんなが集まる。
「部長、待ってます!!」
「やっぱ、全国三連覇には部長が必要なんですよ!!」
「早く一緒に練習したいッス!!」
とみんなの声が聞こえた。
精)「…予想では“もう退院したんスか?”とかで始まると思ったんだけどな…」
『私が言ったから、…サプライズのほうが良かったかな?』
精)「いや、知っててビックリしただけ。」
「そりゃ、知ってますよ。毎日の部長の状況だってみんな知ってましたから。」
「はい、このノートに全部書かれてますからね!!」
「部長の闘病日記みたいな??」
『わっ、誰?!そんなん出してきたの!!』
奪おうとするが、フェンス越で取れるわけも無く…
精)「何?それ、」
『わー!!わー!!』と大声で誤魔化そうとしたが、努力もむなしく…
雅治に、「別に恥ずかしいことじゃないじゃろ」と口を手でふさがれた。
「これ、明日奈先輩が毎日部長の様子を書いてくれてたんス。」
「予定とかも分かってましたから、」
幸村くんが、「へー…」と感心した後、
「それ、俺にくれないかな?」と言った。
『駄目!!私が書いたんだから私の!!』
精)「夕葉が持ってても仕方無いだろ?」
ノートを持っていた後輩がコートを出て、幸村くんに渡してしまったので、結局幸村くんの物になった。
…まあ、幸村くんに敵うとは思わないけど。
こうして、幸村くんのワガママに付き合った日。
振り回されても、やっぱり…幸村くんには早く学校に来て欲しいし、一緒に部活もしたいな、と思った。
精)「(―こんな事までしてくれて、…本当に君は、俺の中でどんんどん大きな存在になっていくよ。
…俺に出来ることは何だろう?って考えたら、思いつくものは一つ。全国大会優勝。そして君に…)」
精)「(最高の勝利と同時に笑顔を届けよう。)」
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