メイン*艦これ

□どうかいい夢を
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今日はいつもより風が強い日だった。こうして習慣になっている寝る前の読書を楽しんでいる時でさえも、ガタガタと窓が軋む音が耳に入って落ち着けない。
それは相部屋の榛名も同じらしい。先程から寝付けないようで、何回も寝返りをうっている。
「寝れないの?」
榛名の背に向かって問いかけても返事は返ってこない。
榛名は昔から断る事が出来ない性格をしている。どこまでも自分を低く見ているところがある。私はそこが、少し好きでないところだった。
つまり、今、返事をしないという事はこれから私が言うはずだった『一緒に寝る?』ということを断りたいって事である。
私は別に、直接言われても傷つかないのになって心の中で零して、仕方なく本を置き、布団をかぶった。
全く、こんな事ばかり上手くなって。そんな賢さなんていらないのに。
少しだけ、寂しく感じた。

「風、強いわね」
布団をかぶってから数十分。榛名と私は未だ寝れずにいた。我ながら恥ずかしい。吹き荒れる風があの立て付けの悪い窓を寝る前より更に強く揺らすのだ。ガタガタうるさい。
榛名も、そのようだ。
「榛名?起きてるんでしょう。返事ぐらいしなさいよ」
「…霧島、どうしたの?」
なんとも気だるげな返事が返ってきた。隠しているつもりらしいが、長年一緒にいる私を誤魔化せる訳がない。それはもうバレバレである。
「いや、窓がうるさいから寝れないわねって」
「うん」
「だから一緒に寝ませんかって」
そう言ったら背を向けたままだった榛名がゆっくりこちらを向いて、無言で見つめてきた。
「何よその顔」
「…いや、別に。なんでもない」
そう言う榛名の顔は更にムッと頬を膨らましていたのだけれど。
「じゃあほら、早くこっちに来て」
「えー」
「えー」
私達がお互いに大袈裟に不機嫌な顔をするもんだから、すぐに笑ってしまった。二人して笑いながら一枚の布団に潜り込むのだから更にだ。
榛名がこんなに冗談言ったり笑ったりするところなんて普段は見れないだろう。
榛名はこんなにもわがままで可愛いのだ。
「おやすみ、榛名」
「ふふっ、おやすみ霧島」
榛名が怖がりなことも、毎晩寝つきが悪いことも、最近嫌な夢しか見ていないことも、全部全部私には分かる。
だから私はいつも、少しだけ遠い榛名の背中に祈る。でも、今日はいつもよりとても近い位置にいるのだ。今日だったら私の祈りも届くかもしれない。
私は榛名の額にキスを一つ落として祈った。
『どうか、いい夢を。』

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