メイン*艦これ

□誰だって忘れていたい
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僕は寒い日が苦手だった。今日みたいに、とても寒くて乾燥した空気なんか特に。
でも、そんなことより最上がアイスをおごってくれるそうだから別に気にしない。寒い中、アイスを頬張るのは好きだからだ。
僕は最上と合流して抹茶とチョコを頼んで食堂の一番端っこの席に座った。
うん、冷たい。流石の最上も手に染みたみたいで、手を握り締めていた。

「今更だけど、今日出撃したの?」
「え?」
「ほら、手袋してるから」
最上は頼んだストロベリー味のアイスを食べながら聞いてきた。最上って苺好きだったんだ…意外だなぁ。
「ううん、してないよ」
「手袋外さないの?」
「うん、僕は寒がりだからね」
「あぁー、それじゃ仕方ないねぇ」
頷きながらまたまた美味しそうにアイスを頬張る最上はさして気にしてないみたいだ。

僕みたいに食べる時まで手袋を外さないのは少ない。そしてそれを周りからよく思われてないのを知っていた。行儀が悪いとか、自分に酔ってるとか、飯が不味くなるとか。色々。僕だってそう思う。

「アイス美味しい?」
僕はさりげなく聞いた。
本当に弱い奴。そんなの分かっているくせにな。
「ん、美味しいよ。何、時雨は美味しくないのかい?」
「ううん、とっても美味しい」
「あ、ねぇ、チョコ一口頂戴!」
「いいよ。ほら、」
ガチガチに冷えたチョコアイスをスプーンで掬って最上に向ける。
「ん、ありがとう。これ、美味しいね!」
僕はその、最上が美味そうに食べるところが好きだった。眩しいくらいの笑顔で僕を見てくれるのも、見ていて幸せになる。
僕とはまるで正反対みたいだ。アイスだって白米だって美味しく感じない。腹のそこから笑えない。
こんななら、ただの鉄屑でいたかった。
ねぇ最上、人間らしい姿でいて幸せなの?火傷塗れな手は、痛むよね。それを誇らしく思えるのはどうして?戦いだけが僕らの支えじゃないの?
僕とは違うんだね。




「あー美味しかったね、時雨」
「うん」
「今度また来ようか」
「え、いいの?」
「今度は時雨の奢りで」
「えー」
「はは、嘘々。僕は時雨より年上だからね、お姉さんが奢ってあげるよ!」
胸を張って言う最上に少し笑った。最近本当の意味で笑うのは久しぶりだ。僕の火傷やあかぎれだらけの手も、痛むことを忘れたように温かかった。ほんの、少しだけだけど。
「ふふっ、いや、今度は僕が奢るよ」
「えっ、いいの?やったー!」
ほら、やっぱり最上は人間らしさを大切にしてるんだ。
僕は、少し羨ましい。
今度、最上の好きなストロベリーのアイスを奢ってあげよう。その時は手袋を外しておこうかな。

戦いを忘れて食べるアイスは美味しいかもしれないから。

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