メイン*艦これ
□私達は密かに幸せでありたい
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私にとっての大井っちはとっても可愛くて賢い人だ。
どこらへんが可愛いかというと、あっち向いてホイをすると必ず負けるところとか、ありがとねってお礼を言うと照れるところとか、実は可愛いものよりかっこいいものが大好きだったりするところ。他にも沢山あるけれど、とにかく可愛い人なんだよ。大井っちは。
賢いっていうのは、何においても賢くてかっこいいんだけれど、博識でもあるんだよ。頭良いって言ったほうが良かったかも。
私と大井っちは毎晩外に出て色々話すのが日課だった。どこか適当な場所に座って大井っちが色んなことを話してくれるのを私は隣で聞く。花の花言葉だとか、星座の名前とか、普通の学校の話とかそれはもう色々。どこから学んで来たんだろうってくらい博識で、一つ一つの話が輝いて聞こえた。嬉しそうに話す大井っちはとっても可愛いんだよ。
「北上さん聞いてます?」
「うん聞いてるよー?」
今日も私は大井っちの隣に座って耳を傾けている。今日の話は提督の話だった。
「どうやら明日の演習はベテランの先輩と組んだそうですよ」
「うへぇ…またかぁ」
「顔広いですしね」
本当にどこ情報なんだろ。もしかして青葉情報…?
「あの提督、実は頭いいんですって」
「そうなの?」
「えぇ、有名な大学出身だとかで…」
「へぇー凄いね。…あの提督がねぇ…」
「意外ですよね」
ふふっと笑う大井っちを見た時、一瞬胸が高鳴ったのがわかった。ほら、きらきらしてる。
大井っち、とっても楽しそう。
「実は、奥さんもいるみたいなんですよ?」
ちょっぴり頬を染めながら嬉しそうにまた話し出した。外が暗くても分かるくらい優しい表情してる。
「結婚してたんだねぇ…あの人」
「私も聞いた時にびっくりしました。だって私達艦娘と一人もケッコンカッコカリ…でしたっけ?それ、しないんですもんね」
そうなのだ。ここの提督はどれだけ私達の練度が高くても指輪を渡そうとしない。秘書艦の陸奥とするのかな、とか考えたことはあったけど全くする気がないみたいだった。
「どうやら浮気をしたくないんですって」
またふふっと笑った。大井っちはたまらなくおかしいらしくて、口元を抑えてまだ笑っている。何がおかしいのか私には分からないけど、大井っちが嬉しそうにも見えたから私も自然と口元が綻んだ。
「…愛されてるんですね、その奥さん」
「まぁ、そうだね。でもカッコカリなんだからすればいいのに…」
「ふふっ提督も一途な方ですねぇ」
明るい声が聞こえてた筈なのに突然ちょっと悲しそうな声が混ざったように聞こえて、ちらっと顔を伺ってしまった。呆れつつ、少し羨ましそうにしてる顔。胸がぐっと締めつけられた。
もしかして、もしかしたら大井っちは。
「お、大井っちはさ、もしかして提督のこと好きだったの?」
「え?」
隠しきれない動揺が伝わらないようにそれとない言い方で言ったつもりだったのに、うーん。
でもいいや。隣から笑い声が聞こえるから。
「なんで私が提督のこと好きになるんですか」
「いや、ほら、なんとなく…?」
「もう、北上さんったら」
ちょっと恥ずかしくなりながら心の隅で安堵する。良かったなって。
「…私が羨ましいのは奥さんです」
「ん?『奥さん』自体にってこと?」
「そうです。私も、誰かに一途に愛されてみたかったんです。…あと、あの真っ白なウェディングドレスと2人お揃いの指輪にも憧れがありました」
バッチリ化粧して、純白なドレスに身を包み、愛を誓うんです。素敵じゃないですか?
私もよく知らないんですけど。
大井っちにしては珍しく物知りでなかったことが、結婚だった。憧れてるのによく知らないなんて変なのって最初思ったけど、多分、大井っちは結婚が出来ないから避けてきたんだと思う。
私は別に、どうでもいい事だと思ってるけど、なんだろう。さっきから胸がざわつく。
「…私達は、結婚できないですから。随分と前に諦めたんですけどね」
あっけらかんと言うにしては、言葉は悲しみを含んでた。
聞きたくない、聞きたくない、そんな声。
「北上さん?」
あの花が、あの星が、あの子が、私の世界で全部全部輝いているのに。
ねぇ、大井っち。
「大井っち、」
「?」
私は彼女の冷たい手をとって握り締めた。
「大井っち、私と結婚、してください」
握り締めた手がビクッと動いたのを感じた。
「私、明日提督に頼んで指輪もらってくるから。私とお揃いの指輪。ウェディングドレスも、今は無理でもいつかきっと着せる。ずっとずっと大好きだから、浮気もしないし。一途だよ、大井っち愛してる」
更に力を込めて手を握り締める。
私の世界が輝いたように、それを話す大井っちがとっても可愛いように、私達は密かに幸せでありたい。
「も、もう。なんなんですか突然」
ふふふって笑ったその顔がちょっと歪んだ。大井っちの目からポロっと涙が溢れ出して私が手を握ってるから拭くにも拭けなくて、いや、そんな場合でもなくて、ただ言葉にならないくらいに胸が熱くなっていった。
うん、うん、そう大井っちは何回も頷いて、ついには私と大井っちの手で顔が隠れてしまうくらい俯いた。
「お、大井っち?」
なんだろ、私も泣けてきちゃったじゃん。なんだよーせっかくならかっこいいままで帰りたかったのに。
「絶対、絶対、ですよ?浮気とか、しないでくださいよ」
「しないよ〜」
「…えへへ…っ」
それはもう、ずっとずっと大好きだからね。大井っち。
それから次の日、私達は提督のところへ結婚の許可を貰いに行った。なにか言われるだろうな〜とか思ってたら案外ぱっと許してくれた。
ただ、まだ指輪は貰えなくて、提督に「段階ってものがあるだろう…後少ししたら渡すよ。幸せにな」って微笑みながら言われた。いいとこあるじゃん、見直したよ。
「大好きですよ、北上さん」
少し前を歩く大井っちの耳が少し赤くなって、私はそれを見てにやにやするのを堪えた。多分今すごい変な顔してると思う。
「ね、大井っち。今日は何の話?」
何にしましょうか、そう笑う横顔がとっても可愛く思えて、幸せだった。
この密かな幸せがずっと続きますように。そう、どうしようもなく思うのだ。