稲妻 短

□嫌いだ
1ページ/1ページ


ああ、嫌だ
あの子はどうしてこんなに俺の機嫌を損ねるのだろうか
存在が嫌だ
嫌いだ

彼女が笑うとみんながふにゃりと笑う
つられるように
神童も狩屋も天馬も先輩も
にこにこみんなに媚び売って
なにがそんなに楽しいんだ

かくうえ彼女は俺にも同じように笑っていらないおせっかいをやく
マネージャーだからってのもあるけど
「どうかな」
彼女は俺のユニフォームのほつれをなおして笑った。
「さんきゅー」
おれは笑わないで彼女からユニフォームを奪い取るようにして背中を向ける
「あ、っ..」
背を向けた時にちらりと見えた彼女の顔は焦ったような、悲しそうな顔でユニフォームを持っていた手の行き場をなくしていた

あんな顔されたら俺が悪いみたいだ。
特別可愛くもないし
勉強ができるわけでもスポーツができるわけでもないのに
人にとりいるのは得意で
なんなんだ

気が付いたら目で追ってる自分に嫌気もさす

なんで嫌いなやつを目で追ってんだよ

「気持ちはありがたいけどさ」
そっけなく言い返した
「迷惑なんだ」
思うようにプレーできなくて
やつあたったのは気に入らない彼女だった。
怪我した俺に慌てて駆け寄って治療する彼女の手をトン、とはねたんだ
「あ、ごめん」
迷惑だよね。
ははって乾いたように笑ってから彼女は下を向いてつぶやくように言った。
「ごめ、きらいな人に..なにされてもうれしくな、てないよ..ね」
唇を噛み締めてテキパキと救急セットを片付ける彼女の手は震えていて
「でも、ちゃんとケアはしてね」
ああ、悪いのは俺だ
これは俺が悪い
たたた、と走り去る背中をぼんやりながめて思った
なんてことだろう
泣かせてわかるなんて
彼女をみるといらいらするのも
目で追ってしまうのも
目を合わせられないのも


嫌いだからじゃなくて好きだからだったのか。



(あたしだけが好きなんだ)

ヒロイン視点かきます。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ