星河一天

□第ニ訓
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動かなくなった者の衣服を漁る手付きも慣れたもので、子供は小さな手で金を握りしめた。


しかし俯いたままの子供の頬には水が伝う。



雨か、涙か。



暫くそうしていると、微かに足音が聞こえた。


一度だけ鼻を啜ると、子供は足音とは逆方向に駆け出した。






「……….…こりゃあまた派手にやったもんだな……」




「……しんでるの?」




「いや、気を失っているだけだ。」




神晃と神威は足を止めた。


血の水溜りに、ポツポツと雨が波紋を作る。


風呂に入った二人は傘を差し、市場へと歩いていた。


神晃は神威の頭をポンポンと叩くと、倒れた男たちの横を通り過ぎようとした。



「神威、あまり見るな、行くぞ。」



神晃の視線の先には、中身が抜かれた財布がいくつも転がっていた。







(……やはり、奴の仕業か。)







「…ねぇとーさん。ボクね、これみたことあるよ。」




「………なんだって?」



神晃が神威を見ると、神威は先程の位置に立ったまま倒れている体を指差した。



いくら夜兎とは言え、惨劇を前にした子供の態度とは思えない。

しかも神威はまだ四つになったばかりだ。


神晃の額に、脂の混ざった汗が浮かび上がった。


忠実に自分の、自分の中の夜兎としての本能を受け継いでいる。


血の道を進む性質が神威の中で既に芽吹き始めている。



まだ四つだ。


神晃の心に強い風が吹いた。



「ねぇ、だれがしたの?」


無垢な顔でそう訪ねてくる神威の顔が、神晃には悪魔の微笑みに見えた。




「……神威、そいつにゃ関わるんじゃねぇ。行くぞ。」


「えぇ〜〜〜〜」



不満とばかりの神威を残し、神晃は踵を返した。

スタスタと行ってしまう父の背中を、神威は「まってよ〜」と追いかけた。







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