星河一天

□第ニ訓
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「いちばだー!」


「あまりウロチョロすんじゃねーぞ、人攫いに連れてかれちまうぞ。」



市場に着いた親子は、沢山並んでいる食べ物を見て回った。


ガヤガヤと賑わう市場には、人混みに紛れた人攫いも少なくはない。


神晃は神威の手をしっかりと握った。


神威は先程までの雰囲気は微塵も感じないほどにはしゃいでいた。


父はホッと胸を撫で下ろす。





(しかし、コイツ……我が息子ながら末恐ろしいガキだぜ。)



星海坊主は心の中で呟く。




「あ!とーさん、にく!」


「お?食うか?よーし、買ってやろう。」


「おィィィイイ!!誰かそいつを捕まえろ!!」

「ギャァアアア!人殺しだァ!!」



突然通りに響いた声。


神晃と神威が声のした方向を向くと、続いて数発の銃声が鳴り響いた。


「キャアアアアァァァア!!!!」


神晃は自身と共に神威を屈ませる。

周囲にいた人々も銃声に一斉に身を低くした。



そんな人混みの中を駆け抜ける影がひとつ。

それは小さい者で、頭から布を被っているために顔は見えない。


しかし、その布には真っ赤な体液がベッタリと染みを作っていた。



大人を押しのけながら、その小さな存在は神晃と神威の目の前30mほどにまで迫ってきた。


神威は屈んだまま目を見開き、神晃は神威の盾になるように立ち上がった。





顔は見ずとも分かった。


数日前に路地裏に消えた、あの子供だ。




「出たな、…もうやめろと言ったはずだぞ。」




『ああああァァアアアアーッ!』



「言って分からねェなら、体に覚えさせるまでだ。」



奇声を上げながら突っ込んでくる影に、神晃が戦闘態勢に入ろうとした瞬間。






再び鳴る銃声。




途端にその小さな存在は態勢を崩し、雨で緩んだ土に転がった。





「撃ちやがった…!」




神晃は慌てて倒れた子供に駆け寄った。






「しとめたか!」




「馬鹿!頭は狙うな!死んじまったら商品にならねーだろうが!」




子供を撃ったと思われる、数人の男たちが続々と辺りに集まってくる。

軽く見ただけでも5、6人はいるようだ。



その手にあるのはただの拳銃ではなく、狩猟用のもの。


神晃の額に筋が浮かぶ。





「おい、ガキ相手に…ッ?!」



星海坊主は咄嗟に腕を交差させた。



そこに強烈な蹴りが飛んでくる。


腕の向こうに見えたのは、先程撃たれたはずの子供だった。



「ッ…」


いくら夜兎とはいえ、こちらも夜兎である場合は所詮、子供の蹴り。


神晃がビクともしないことに少し驚きの表情を浮かべながら、子供はサッと空転すると一瞬だけ地に足をつけた。




「このヤロ…ッあ!!」


神晃が伸ばした手をスルリと避け、その小さな体を活かして空いた隙間を駆け抜ける。




「か、神威イィ!逃げろ!」


神晃はすぐさま叫んだが、神威は目前まで迫っていた自身と同サイズの人物に、ただ立ち尽くすだけだった。




「神威ィィ!!」


神晃の声がもう一度響いたが、子供は神威には意にも介さず横切ると、騒めく人混みへと姿を消した。







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