鏡花水月
□第二訓
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第二訓
「お父さんってウザイけどぶっちゃけそこまで嫌いじゃない」
しばらく歩いていれば次第に人気も疎らになり、どことなく照明も薄暗くなった。
しかし紫音は慣れた足取りでスタスタと歩く。
そして、とうとう照明もなく誰も居なくなった時。
紫音はふいに足を止め、振り返る。
だが薄暗い通路には誰の姿もない。
『……………….…。』
すると紫音は突然履いていた靴を脱ぎ、再び歩き出すとそばにあった角を曲がり階段を駆け降りた。
そこから数分クネクネと迷路のように入りくんだ通路を裸足のまま走り続けると、紫音の目の前に一つの扉が現れた。
その扉は珍しく自動ではなく手動式。
ノブを捻ればカチャリ、と静かに開いた。
そこは使われていない部屋なのか、ポツンと二人掛けソファがあるだけで空気も少し埃っぽい。
しかし、扉の真正面にある窓。
床から天井まで、壁一面が窓硝子になっている。
ソファはその窓と向き合うように置かれていた。
紫音は扉を閉めて、ソファに片膝を立てて腰を下ろした。
その大パノラマから見える銀河は、どんな宝石にも優る。
まさに絶景である。
『今日は一段と……』
紫音は星々を見つめながらポツリと呟いた。
訪れた静寂。
紫音からは自然と鼻唄が漏れる。
すると、背後の扉がカチャリと鳴る。
『!!』
紫音が慌てて振り返れば、
「あり?いたの?」
入ってきたのは神威。
その青い瞳に星の光が写る。
紫音はまた窓の方を向いた。
「また今日は一段と綺麗だね。」
そう言いながら神威は紫音の横に腰を下ろす。
彼も今はチャイナ服ではなく、Tシャツに下はジャージといったラフな格好。
風呂上がりなのか、微かに石鹸の香りが漂っている。
『やっぱココが一番だ。』
「静かだしね。」
二人はそれから特に会話をすることもなく、外を眺め続けた。
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