鏡花水月

□第五訓
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第六訓

「いつものオジサンと知らないオジサンとオジサンのバーコード」






『どういう事だよ!!』


紫音の怒声が第23ポートのホームに響き渡った。

その場にいた者の視線は紫音に集中する。


「もう決まった事だ、コイツ等は牢へブチ込む。お前に意見する権利はねぇ、黙ってスルメでもかじってろ。」


阿伏兎は、思い切り睨んでくる紫音に淡々と告げた。


『アイツはあたしを殺さなかった!だったら…!』


「さあな、俺が知るか。」


紫音が言う“アイツ”とは、あの朱色頭のアイツのことだ。


紫音は舌打ちをして、他師団の団員に今にも連行されそうになっているあの組織の構成員達を見た。


構成員達は皆、肩を落として大人しくしている。


団員達は紫音の態度に困惑しながら、阿伏兎を見て指示を仰ぐ。


『離してやれ、そいつ等は…』

「連れてけ。」

『ちょ、!』

「良いから行け。」


連行を止めようとした紫音の首を阿伏兎が後ろから片手でロックする。


団員達は頷くしかなく、構成員達を連れていってしまった。


『はーなーせー!』


腕の中でもがく紫音を見て阿伏兎は溜め息を吐く。


「紫音、落ち着け。お前には別の仕事がある。」


『うるせェエ!』


「…面倒掛けやがって。」


阿伏兎は舌打ちをするとグッと腕の力を強くした。


「ガキがイキってんじゃねーぞ。」

『あ"、ぐあ"がが……』


すると数秒後、紫音の体から力が抜ける。


「ったく、いつになったら人の話が聞けるようになるのかねェ。」


阿伏兎は溜め息混じりに呟くと、オチた紫音を左肩に担いだ。



「副団長、俺等は…」


差し障りない声量で阿伏兎に声を掛けたのは云業。

彼の後ろでは第七師団の部下達が苦笑いをしている。


阿伏兎は口を曲げて、空いた手で襟足を数回撫でた。


「待機だ。いつ呼び出しがあるか分からん。母艦内にいろ、外出はするな。」


云業含め、団員達はまるで土木作業員のような太い声で返事をした。









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