鏡花水月

□第七訓
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第七訓

虫の知らせ





翌日もその次の日も10日間、紫音達は街を移っては地道に聞き込みをしたが収穫は無し。


一番隊の疲労感や地道な活動によるストレスは限界値を迎えようとしていた。



「やぁーっと今日で終わりだァ!」


馬岱は飛行機を降りるなり、うさを晴らすように声を上げた。


「あー俺ァベッドで寝てェよ…」


「あぁ。だがその前に風呂だ。」


「俺どっちもー…」


「そうだな、今日頑張れば戦艦に戻れる!皆、最終日乗り切ってくれよ!ほれ、とっとと行け。」


周瑜はパンパンと手を叩いて、団員達を街へ促した。



余談、たぶん周瑜は学校の先生とか向いてると思う。
転職をおすすめします。




最終日、この街の名は「ローアン」




紫音達は、その街のとある路地裏にいた。


周瑜たちの心配を他所に、紫音は三日目を過ぎた辺りから元の雰囲気に戻っていた。




馬岱が意気揚々と先頭を歩き、手当たり次第に聞き込みを続ける。


その後ろで周瑜と紫音は目を光らせていた。






聞き込みを始めてから一時間程たった頃、馬岱は突然足を止めこちらに振り返った。


「…お、おい。」


「どうした?」


紫音と周瑜は馬岱に駆け寄る。


「これは…!」


馬岱の傍に寄ると、周瑜も何かに気付き顔をしかめた。

紫音は訳が分からず、二人の顔を見つめた。


『なに?どうしたんだ?』


「え?隊長分かんねーのか?」


『だから何がだよ?』


「馬岱、紫音はまだ若いから。」


「あ、そうか…。」


周瑜は紫音の肩に手を置き、自分の鼻を指差した。


「この独特な臭いだよ。」


『臭い…?何も分かんねェけど。つーか、その汚い手で触らないで、腐る。』


紫音は周瑜の手をパシンと払うと、スンスンと臭いを嗅ぐが首を捻った。


「お前なァ……、近いぞ。」


周瑜は額にピキッと筋を浮かべながら、馬岱に目をやった。


「あいよ。」


馬岱は、この臭いがする源を探し始める。

その間に周瑜は紫音に説明をする。


「紫音、この臭いは夢幻郷(むげんきょう)だ。」



その周瑜の言葉に紫音は目を見開いた。



『…むげん……それって、もしかして…』


紫音が驚くのも無理はない、と周瑜は続ける。


「知ってはいるんだな。夢幻郷は転生郷よりも更に希少、いわば闇の中の中でしか出回らない代物だ。その採掘場の所有権は春雨とは別の組織が所有しているんだが、最近、春雨がそれを奪い取ろうと計画し動いているらしい。だが引っ掛かるのは、他師団の諜報部隊の報告じゃ、この星に出回っているとは聞いていない。いや、…報告が遅れているだけでこの星にも流れるようにしたのかも知れねェが…とりあえずこんなに堂々と路地裏なんかで夢幻郷の臭いがするなんておかs……紫音?」


『…ハァ、ハァ、ハァ、ハァ』


無意識に息が段々と荒くなり紫音は思わず胸を掴む。


『ハァッ、ハァッ…ハァハァッ』

「お!ちょ、紫音?!」


周瑜は慌てて紫音の両肩を掴んで揺さぶる。

しかし紫音は俯いていて表情は見えない。


『ハァハァッ、ハァッ、ハァハァ』

「どうしたんだよ…おい、馬岱!こっち来い!」


「何スかー?って隊長ォッ?!」


「…過呼吸だ。とりあえずここは空気が悪い、表通りにも出れねェし……風通しが良い場所まで行くぞ!」


「お、おう!」


周瑜は紫音を抱き上げ駆け出した。

馬岱もその後に続く。









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