鏡花水月
□第九訓
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第九訓
「嵐の前の静けさ(仮)」
「江戸へ行け、か。…上もまた面倒くせぇ仕事を押し付けてきやがったな。」
「俺は楽しみだよ。その侍って連中に会えるのが。」
阿伏兎は予想した返事がそのまま返ってきた、と歯を見せた。
母艦を出発して数分。
神威と阿伏兎は操縦室にいた。
阿呆提督の命により、今から地球 江戸へ向かうのだ。
正確に言えば、江戸は歌舞伎町。
その歓楽街の地下に存在する“街”を根城にしている、とある人物に会い、交渉することが今回紫音達に課せられた任務である。
「さて、長旅になることだし…何して暇を潰そうかな。」
前回地球の近くを航海していた際は複数の任務を消化する中で偶然その場にいたようなもので。
今回は別。
ここから地球まではかなり距離があり、いくら技術が進んでいるとはいえ、それほどの距離を行くには少なくとも2日は掛かる。
その48時間をこの戦艦の中で、特にする事もなく過ごさなければならない。
神威はちらりと、視線を左斜め後ろへ向けた。
そこには部屋の端に置いてあるパソコンの前に座っている紫音の姿。
頬肘をつき、何とも言えない顔で画面を見ている。
「何してるんだい?」
紫音が何を見ているか別に興味はないが、1つ目の暇潰しを発見した神威は紫音の背後から画面を覗いた。
そこには“侍”の文字。
神威のアホ毛センサーがチロチロと揺れた。
どうやら興味が出たようだ。
なに食わぬ顔で、机に少しだけ尻を乗せた。
『……何だよ、気が散るじゃねーか。』
「ねぇ、そいつ等の写真とかないの?」
『知るか、テメェで調べろ。』
神威の方を見ようともせずに、素っ気なく答える紫音。
しかし神威は「写真。」と、一言追加した。
紫音は何かを言いかけたが止め、少し不機嫌そうな顔で言われた通り検索を始める。
数秒後、ズラリと出てきた侍と呼ばれる連中の写真。
着物と呼ばれる衣服を着用し、どの人物もそれぞれ最低1本ずつは腰に刀を差している。
それを見た神威の口元が弧を描いた。