星河一天

□第一訓
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助けを叫んでも誰も来てくれない事ぐらい知っている



もし来てくれても正体が分かれば、目の色が変わる事ぐらい知っている






「ヤト」




拳を振るえばそう言われ、相手の目つきが変わるため、大勢の前ではただ逃げることに専念する




自分の身は自分で、自分が護るしかない事ぐらい知っている




空腹で力が出ない体に鞭を打って、男の手を必死で避け続けた



立ち眩みがする


足が縺れそうになる


それはきっと自分を捕まえようとしているこの男も同じ事だろう



捕まれば死ぬ



捕まれば終わる



気付けば男は足元で血だらけになって倒れていた


自分の右手を見れば、こちらにも血がべっとりと付いていた


子供は動かなくなった男が身に着けていた布を捲り、金を持っていないか漁る


が、男が何も所持していないことが分かると屍をそのままに廃墟の外へ出た


降り続ける雨が身体に飛び散っていた血を洗い流す


小さな歩幅で歩く子供が通ってきた道には、真っ赤な水溜まりがいくつも出来ていた








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