星河一天

□第十三訓
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第十三訓

「昭和アニメって展開分かっててもなぜか見入っちゃう。」








戦場を駆ける小さな影。


自身の倍近くある大きさの天人を前にしても、怯むことなくその眼光は鋭さを増す。

相手の頸動脈を手刀で断ち斬ると、壊れた水栓のように噴き出した鮮血を全身に浴びた。



「紫音!角度が悪い、もっと手首をしっかり使え。 」


紫音が顔に飛んだ血を袖で拭っていると、近くで暴れていた阿伏兎が言った。

紫音はあがった息を整えながら、何度か手首を振り、素振りをしてみる。


こちらは息も絶え絶えやっているのに、息ひとつあげず且つ楽しそうに殺戮に興ずる阿伏兎や他の団員たち。



『あ〜〜早く大人になりたぁーい!』


「妖怪人間みたいなこと言ってる暇があったら、はやく“人間”になれるように場数を踏め。」




紫音が一番隊に正規加入してから数ヶ月が経過した。


周りの大人たちに負けじと戦場では常に全力で突っ走るようになった紫音を見て阿伏兎は満足していた。



そんな紫音のさらに前に、小さな影がもうひとつあった。



「うわっ汚ッ!ずぶ濡れじゃないか。」

『うっせーテメェもだろーが!』


真っ赤に染まった神威の髪を指差しながら紫音は目を釣り上げた。



紫音が一番隊に入ってから、こうした戦場では神威も一番隊と同じく最前線に出てくるようになった。


どうやら鳳仙に直談判し許可を得たらしい。


しかし彼は、いの一番に敵前に駆け出してしまうため作戦などは通じない。

特攻一番隊の最近の悩みのタネである。



『神威いま何体?』


「18。お前は?」


『え!15、チッキショーすぐ追い抜いてやる!』


「させるか!」


「コルァァァァ!!お前ェら遊びじゃねーんだぞ作戦を守れェ!!」


同時に駆け出したふたりに一番隊隊長の陸遜が怒鳴り声を上げた。

しかしふたりは全く聞かないまま敵の群れに突っ込んでいった。


団員たちからは、呆れながらも笑いが起こる。




そのうちにこの子供二人が戦場で暴れる様子が名物のようになり始め、


神威は、異常な体力量とその類稀なる抜群な戦闘センス。あの鳳仙に弟子になることを許可された貴重な存在から将来有望という意味で「麒麟児」と。

紫音は、神威には劣るものの筋がある身のこなし。戦場で舞うと美しく煌めく肩下まで伸びた髪に由来して「金獅子」と、戦場ニックネーム的なものが付けられていた。









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