星河一天

□第ニ訓
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ある日、子供の手にはあんパンが一つあった。


どうでもいいが、餡はこし餡ではなくつぶ餡だ。



それにかぶりつきなから今日も雨を降らす曇天を見上げる。



傘はない。



容赦なく小さな体に降り注ぐ雨。



そんな子供の後ろには血を流しながら倒れている大人が数人。




パンを食べ終わった子供は倒れている一人の懐を漁り、財布を取り出して中身を確かめる。




小銭がいくつか、札は入っていない。


中身を抜いてポイッと財布を投げ捨てる。










「関心しねーなァ、人の金をこんな真昼間から堂々と盗むとはよォ…」






『………………….…。』







足音と共に聞こえきた男の声。



見向きもせずにもう一人の懐を漁る。







「……言葉が分からねェのか?それとも口が聞けねェのか?
ウチにもテメェと同じぐらいのが居るが、そりゃあもうペチャクチャ喋るぞワイドショーの評論家みたいに。」





『…………………….…。』






手を止めない子供に溜め息を吐いた男は、しゃがみこんで手を掴んだ。






「やめろ。…生きるためかも知れねェが、これ以上やればテメェの手が汚れ…!!」




男の目に写ったのは真っ黒な小さい足の裏。





「…ッ!!」




避けようと男が掴んだ手を離した隙に子供は金を握り締め走り出した。




「あッ!待て!コルァッ!!」



手を伸ばしながら男は叫ぶが、振り返りもせず路地裏へと消えていった。








「…あいつらが言っていたのはあのネズミのことか…」




男はかけていたゴーグルを額へずらすと、溜め息を吐いて倒れている男たちを眺めた。




どうやら、ただ気を失っているだけのようだ。


しかし、男たちの体に幾つも残る小さな拳撃の痕。




この大の大人たちが自分の命を奪いにきたとして、まだ幼児と呼べる子供がここまで抗えるのか。


男はもう一度、子供が消えていった方向へ目をやったあと踵を返した。








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