星河一天

□第七訓
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しばらく歩き、人気が疎らになった場所で陸遜は紫音の目線に合うように屈んだ。




「……….…お前、死ぬ前にしたい事はあるか?」





陸遜はビッと紫音の口に貼られていたガムテープを剥がした。



それまで陸遜を見ようともしなかった紫音は、彼に驚きと疑いの眼差しを向ける。




「なんつー顔してんだ。ほら、したい事、言えよ。飯ぐらいなら食わせてやんぞ。」



ぶっきらぼうに言った陸遜の顔を見つめながら、子供はゆっくりと口を開いた。






「……….…生きたい。」





「……….………….…ったく、どうしたもんかね。」



陸遜は呆れたように言うと立ち上がり、スタスタと歩き始めた。




紫音は少し固まっていたが、陸遜に遅れないように早足でついて行く。



陸遜は上着のポケットを弄ると板ガムを取り出した。



「……….…食ったことあるか?」



紫音は首を振る。



「………食うか?」



目の前にきた一枚のガム。

紫音は、初めて見たそれを好奇な目で見たがもう一度首を振った。



「うめーぞ。」


陸遜が自身の口へ運ぶのを眺める。



「毒なんか入ってねーから。」



再度差し出されたそれを受け取ると、見よう見まねで包みを剥がしゆっくりとガムを口に含んだ。



ぶわっと広がるブルーベリーの味に、紫音はこの世にこんなにも美味いものがあるのかと驚いた。


そんな紫音を横目で見ながら、陸遜は少しだけ口元を緩ませた。





もうしばらく歩くと、通路に開放的な部屋が現れた。


ドア部分には「談話室」と書いてある。



「オイお前ェら、……….…新入りだ。」


くちゃくちゃとガムを噛みながら陸遜が言うと、室内で屯していた連中がこちらに振り返った。



「隊長、なんだよそのボロ雑巾みたいなガキァ。……….…まさか、それが新入りか?」


そう言ったのは、輪の中の一人・元譲(げんじょう)だ。

元譲は、くちゃくちゃと音を立ててガムを噛む紫音を指さした。



すると元譲の隣にいた男・阿伏兎(あぶと)が呆れた声を上げた。




「隊長、ココは児童養護施設じゃねーんだぜ。」



「んァ〜〜コイツは、なんつーかな、………体験入学?見習い?ユース、そう一番隊youthだ。」



「「 は? 」」


「……….…まぁ何でもいい。さっき拾ったんだ、たった今から一番隊(ウチ)で飼うことにした。」


「大昔のヤンキー漫画の主人公かよ!」


「雨の日に、ダンボールに入れて捨てられてる子犬に傘をあげる暴走族の総長的な。」



「……….…あっ、そういえば阿伏兎…お前最近雑務が増えたから小姓がほしいとか言ってなかったっけ。」



「……….…え?……(汗)」








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