星河一天

□第九訓
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午前の部とでも言おうか、本日すべき三分の一の仕事が終わったところで、この場を仕切っていた元譲は昼休憩に入ることにした。




「あ〜〜暑っちいな!」


『お疲れ。』



元譲は汗を拭いながら、片付けをする紫音に口角を上げた。


「お前ァいつまで雑用してる気だ?もう第七師団(ウチ)に来てずいぶん経つだろう、そろそろどっかに入隊志願でもしたらどうだ。」



『……….…そう言われても。』




彼が言う通り。
紫音は戦場でのスキルをこの数年磨き続け、微力ながらに師団の戦力になりうるレベルの実力を身につけた。

そもそも、まだ年端もいかない存在がこのような環境で数年も生き延びている時点で紫音は天性の幸運を持ち合わせていると考えられる。




「……ま、阿伏兎(奴)が首を縦に振らにゃ無理か。」



話は戻り、紫音が戦闘要員である隊に属さないのは阿伏兎が許可しないからである。

あの男が紫音を手放そうとしないせいで、紫音は独り立ちする機会を何度も逃している。

幸か不幸か、紫音は小姓としての才に溢れていた。


『元々は一度死んだ命、運良く拾ってもらった身だ。それに、別に日の目を浴びたくて仕事してるわけじゃねーし…』


「ふうん?案外しっかり割り切ってんだな。」


『阿伏兎やアンタや師団の奴らを見てて思っただけだ。あたしには皆んなが持ってる信念みたいなのがねェから、したいと思うことも特にないし。』


「…信念、ねぇ。」



少し俯きながら言う紫音に、元譲は鼻からため息を吐いた。

予想よりも紫音は自己評価が低いようだ。

これ以上聞いて落ち込ませてはいけない、と元譲はひとつ伸びをして話を終わらせた。





「あ〜〜腹減ったな。」


『…そーいや、阿伏兎が昼は三丁目の中華飯店に行くって言ってたぞ。』


「お〜じゃあ俺らもそこで食うか。お前ェ今日は頑張ったから、この元譲様が奢ってやんよ。」


『マジか!?ヒャッホー!』



先ほどまでの暗い空気は何処へやら。

紫音はマ◯オさながらに拳を上げながらジャンプをして喜んだ。









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