皓月千里
□第ニ訓
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十数分に渡る演奏が終わった。
『...三味線といったか、不思議な音色だ。
お前らサムライも、不思議な奴らだ。いくら忠告してもズカズカ人ん家の中に入り込んできて、警戒もクソもねェ。
お前らの中に、私が探してるものが見つかりそうな気がしてきた。』
前回に尚香で痛い目を見たときと、いまが同じ条件であり警戒も強まっていた。
しかし彼の演奏を聴いているうちに、紫音はいつのまにかこの空間を受け入れていた。
「探しているものとは何のことでござる。」
三味線の音の余韻が耳に残る。
万斉が三味線を置こうとした時、紫音が口を開いた。
『あれからずっと考えていた。お前に聞かれたことだ。』
「…………。」
『...あたしは空っぽだった。
何もかも失って、失う恐さをしって、空っぽのまま生きてた。意味も名前もなく生きてた。』
紫音の脳裏に、十年前鳳仙に一撃見舞った時の神威の瞳が浮かんだ。
鋭く尖ったその蒼眼には決意がこもっていた。
『いま思うと、あの時からだったのかもしれねェ。
自分にはない、確固たる意志を持った魂に惹かれて、触れてみたくて、気付いたら手を差し出していた。』
紫音は自身の掌に目を落とす。
『アイツは、第七師団(あたしたち)の誇りだ。
それが、アンタの質問に対するあたしの答え。これでいいか?』
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