皓月千里

□第三訓
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パチパチという音の正体は焚き火だった。


それを無言で囲み暖をとっている、男三人に女が一人。

一人の店員がそばで困っている。


店員:「………あの、焚き火とかそういうのはご遠慮願えますか。他のお客様の、ゲホ、ゴホッ」


張苞:「寒いんス。暖をとるくらい勘弁してくれないかね。」


店員:「いや暖って……もうちょっとしたボヤ騒ぎみたいになってるし、ゲホッ、みんな並んでるわけですから。」


李典:「よーし焼けたぞお前たち。」

紫音:『わァ。』
甘寧:「はやく食べようっ!」


モサモサの立派なヒゲを生やした李典は、トローリチーズがのった焼きたてパンを紫音と甘寧へ渡した。



店員:「いや焼けたぞじゃなくて、きいてますか人の話。つーか無駄にうまそっ!!ハイジ!?ハイジが食ってた奴!?」


周りの客:「なんだよアイツら!!なんで行列の真ん中でハイジの奴食ってんだよ!」

周りの客:「なんか腹立つ!!腹立つけどうまそっ!!」



怒号が飛び交う中、四人はトローリチーズをハフハフしながらクチャクチャと食べる。


周りの客:「いかん…腹が…食うものも食わず我慢してきたのに…」

周りの客:「うぐぐ」


紫音:『おじいさん、ペーター達にも分けてあげようよ。体も温まるし、きっと喜ぶよ。』

李典:「おやおや紫音、お前は優しい子だね。
でもいけないよ、これは私達が育てたヤギから作られしチーズ。働かざる者食うべからず、かわいそうだがこれがアルプスの掟だ。
何かを得るにはそれ相応の代償が必要なんだよ。例えばそうだね、彼等が並ぶ順番を交代してくれるとか、勿論前の人限定だが。」


そう言いながらおじいさんは、チーズをトロォォォと伸ばした。



周りの客:「うおおおお腹立つ!!腹立つけど超うまそう!!」

周りの客:「チクショォォォ!!もう我慢できん!!君達、僕が順番を代わってあげるからハイジを!!」

周りの客:「待て!ハイジは俺のものだ!!小さい時テレビで見てからずっと食べたかったんだ!」

店員:「ああ!!列を乱さないでください!」

周りの客:「ハイジぃぃ!!」

店員:「ハイジじゃなくてあぶ…あぶないから!」





李典:「ちょろいもんよ。」




一斉に列が乱れ、ハイジをめぐる殴り合いが始まった隙に四人は歩を進める。



李典:「これで二十番くらい前に進んだか?」

張苞:「でもまだまだ先は遠いな。」

甘寧:「ったく、何が悲しくてこんな辺境の星に来て行列に並ばねェといけねーんだ。」

李典:「しゃーねーだろ、先行予約の抽選で漏れちまったんだからよ。」

甘寧:「だからってこのネットでなんでも注文する時代に、店頭に並んだ先着順とかアナログすぎんだろ。
海賊っつったって暇じゃねェんだよ、年末年始も仕事なんだよ、今日も朝から1日みっちり仕事した後にきてんだよ、ええ?」

張苞:「先着順に、お一人様一台限りか。」

李典:「この状況じゃ手に入れるのは至難の技だな。」

紫音:『代わった年越しと思って楽しむしかねェよ。神社で並ぶかゲームで並ぶかの違いだ。』

甘寧:「神社なんか生まれてこのかた一度だって行ったことねーよ!」

李典:「しかしライバルが多すぎる。前にあと何人いる?」

甘寧:「もういっそのことコイツら全員、てか店ごとぶっ壊しちまうのが手っ取り早いんじゃねーの。」









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